ESG of Tourism industry

HILTONとMarriott Internationalの人的資本開示情報比較

ホテル業界の人的資本開示情報について、業界1位のマリオットと3位のヒルトンを比較してみました。いずれも2020年のレポートです。

Hilton ESG Report

まずはヒルトンのESGレポートからです。

https://cr.hilton.com/wp-content/uploads/2021/04/Hilton-2020-ESG-Report.pdf

HILTON ESGレポートより 井川作成

上記のように重要項目を見ると人的資本にかかかる項目を他の項目よりも重要視していることが判る。

HILTON ESGレポートより 井川作成

ジェンダー比率は、世界全体では女性43%。米国内では女性52%と過半数を占める。

HILTON ESGレポートより 井川作成


・従業員向けの25,000以上のコースのある教育プログラムをに教育の機会を与えるだけでなく、ヒルトン以外の教育(大学の学位取得、卒業証明書取得)に対してもサポート支援を行うなど、従業員のレベルアップに貢献。

・米国で女性にとって最高の職場として2年連続1位に選出され、2027年にはジェンダー平等とリーダーの25%を米国民(ネイティブ)が占めることを目標とする等、ダイバーシティに対して明確な数値目標を掲げる。

マリオットインターナショナルのレポート「Marriott International Serve360」

次に、マリオットインターナショナルのレポート「Marriott International Serve360」です。

https://serve360.marriott.com/wp-content/uploads/2020/12/2020-Serve360-Report.pdf

Marriott International Serve360 より 井川作成

・興味深いのが、SERVE360というコンセプト。方位磁石のデザインとともに、DOING GOOD IN EVERY DIRECTION と記載している。

ーNurture Our World

ーEmpower Through Opportunity

ーWelcome All and Advance Human Rights

ーSustain Responsible Operations

これら全方位に良い取り組みを推進することを明言。

Marriott International Serve360 より 井川作成

・全世界と米国内での従業員の属性が報告されていますが、どちらも女性が過半数を占める。

・米国のマネージャーは白人比率が高いことを認識。

Marriott International Serve360 より 井川作成

・ホテルの従業員になる前の若者への教育機会を提供し、従業員の卵を育てる。

・退役軍人の雇用や仕事へのサポートも手掛け、ウォルトディズニーワールドのリゾートでは米軍とパートナーシップを構築。

Marriott International Serve360 より 井川作成

・人身売買を感知するためのトレーニングを受けたり、ユダヤ人やLGBTQ、ネイティブアメリカンの文化に関するカリキュラムを開催。

Consideration

ジェンダー:

ヒルトン・・・女性の雇用比率は公開しているが、管理職の女性比率は公開していない。

マリオット・・管理職の女性比率も公開し、米国内に限っては半数を超えている。

エスニックダイバーシティ:

ヒルトン・・・米国内の72%

マリオット・・米国内の66%

正社員比率:

ヒルトン・・・全世界⇒93%、米国内⇒非公開

マリオット・・全世界⇒非公開、米国内⇒85%

離職率:

ヒルトン・・・全世界⇒非公開、米国内⇒非公開

マリオット・・全世界⇒20%、米国内⇒17%

具体的な数値目標:

ヒルトン・・・不明瞭

マリオット・・2025年までに少なくとも3,500万ドルを投資して、若者、多様な人々、女性、障がい者、退役軍人、難民の間でホスピタリティスキルと機会を開発するプログラムとパートナーシップを強化。グローバル企業の代表およびリーダーのジェンダー平等を達成。

レポート内で言及していること

ヒルトン・・・ジェンダー平等、従業員教育、多様性・包括性・バイアスに関する研修、ハラスメントフリーな職場提供、売春・買春・人身売買防止、難民支援、LGBTQ

マリオット・・ジェンダー平等、従業員教育、人権教育、社外の若者へのホスピタリティ業界で働けるプログラム提供、障がい者雇用、退役軍人のケアおよび雇用促進、難民支援、売春・買春・人身売買防止、ユダヤ人・ネイティブアメリカン文化の理解

あくまで上記レポート内の人的資本に関する項目での比較になりますが、ヒルトンとマリオットを比較すると、マリオットの方が人的資本に対する取り組みが進んでいることが判ります。

取り組みは多岐にわたっており、人的資本への投資や環境整備が求められる世の中になっていることが良く分かり、この流れは拡大の一途を辿るでしょう。

日本初のゼロ・エネルギーホテル『ITOMACHI HOTEL 0』

愛媛県西条市に2023年5月にOPENした ITOMACHI HOTEL 0 は、環境省が定める「ZEB」認証を取得した日本初のホテルです。

愛媛県西条市に本社のある、半導体機器製造メーカーで再生エネルギーや地方創生、まちづくり事業も展開する株式会社アドバンテック社と、国内外で話題のホテルを手掛ける株式会社GOODTIME社が、隈研吾氏の建築設計により開業しました。

予約時に無理を言って、ホテルの話を伺いたいと申し出たところ、なんとGOODTIME社の明山社長がお見えになり、館内外をご案内くださいました!

ゼロエネルギーの仕組みが一目で理解できるインフォグラフィックス

ホテルのレセプションに到着するとまず目に飛び込んでくるのは、インフォグラフィックス。
(そこまで目立つように置かれているわけではないのですが、私のように、ゼロエネルギーを目的として泊まりに来る人にとっては目に飛び込んでくるはずです)
以下で紹介するのはデモ画面ですが、ホテルが消費しているエネルギー量と生み出しているエネルギー量が掲載されています。
ZEBのために蓄電池とコージェネ(CGS発電機)も用意したものの、開業以来使用したことが無く、太陽光発電で全てまかなえているとのことでした。
また災害時の避難所としても機能するように、電力供給が止まっても72時間自家発電で電気が使えるようになっています。

水道代が無料の西条市

西条市は湧き水が豊富で、上水道が無料の市としても知られています。
水の豊富な西条市ならではで、客室には水の流れる仕組みがみられる透明の蛇口があります。

サステナビリティを徹底した客室アメニティ

客室には当然ペットボトルの水は置いておらず、西条の湧き水が入ったボトルが用意されています。客室からウォーターボトルに水を汲んで出かけることも出来るし、街中で水を汲むことも出来ます。
併設する『いとまちマルシェ』で買い物をするときにも使えるエコバックも用意されています。

滞在に便利な設備『ゲストキッチン』を併設

宿泊スタイルは、朝食付きプランはあるものの、夕食は提供しておらず『いとまちマルシェ』や近隣の飲食店を紹介しています。あるいは、ホテル内にキッチンがあるのでよそで購入したものを持ちこんで調理をすることも出来ます。
訪問者に滞在中に街中に出てもらうことは、ホテルがサステナブルな地域づくりに貢献するのに重要な視点です。

サイクリストの滞在にも最適!

客室内にそのまま自転車を持ち込める仕様となっている上、駐輪場、コインランドリーもあり、サイクリストの滞在にも適しています。サステナブルツーリズムへの相性も抜群です。

『愛媛のたのしみ』を0から体験―愛媛づくしのホテル

  • 客室の色調は、伊予青石を基調にしたブルー
  • 朝食は、地元愛媛の産地から仕入れた旬の野菜や果物を使用
  • 砥部焼の窯元「遠藤窯」によるオリジナル湯呑と急須
  • 松山市「ICOI COFFEE」によるオリジナルドリップパック
  • 西条発の銘菓「たぬきまんじゅう」
  • 愛媛有数のお茶どころ新宮町で、古くから新宮茶のパイオニア「脇製茶」の緑茶
  • 愛媛在住の和紙デザイナーによる和紙アート
  • 西条の水の音をサンプリングした自動温泉構築システム「AISO」による館内音楽

等々、愛媛にどっぷり浸かった滞在ができます。愛媛を中心にホテル建設にかかわった方々が紹介されたパネルもあります。

ITOMACHI HOTEL 0 の生まれた経緯

実はこのホテル。ホテルありきで造られたのかとと思いきや、アドバンテック社が西条市の住民から意見を募って作られたのだそうです。
同社が再生可能エネルギーの拠点づくりのために地方をめぐる中で「人がいない」「何もない」「活気がない」という日本の地方都市の厳しい現実を実感させられました。地元西条も例外ではなく、「街のにぎわいを取り戻したいこと」、「若者や挑戦する人にチャンスを与えられる街にしたいこと」の2つを趣旨にした上で、隈研吾さんとプロジェクトを始動。住民の意見を取り入れたところ、ホテルという拠点が採用されたとのことでした。
どうしても「日本初」という冠にはこだわりたかったという明山社長。
水資源が豊富な西条市というブランドとも相まって、日本初のゼロエネルギーホテルが完成したようです。
オープン後は、市民から「帰省した親族が泊まる場所ができた」と喜ばれているそうです。

ITOMACHI HOTEL 0 を訪れてみて

念願叶って訪れたITOMACHI HOTEL 0では、

  • ゼロエネルギーを視覚にして伝えるインフォグラフィックス
  • 愛媛県産のものをとことん追求・表現した設備、備品、アメニティ、食事
  • ゼロエネルギーホテルを謳いながらも僅か60㎡の客室に最新のエアコンが3台も設置されていること、それが必要ないほどの客室の機密性の高さ
  • ホテル外への回遊を促す滞在の提案
  • 宿泊客に媚びる(主張する)ことなくスタイリッシュにサステナビリティを実現していること
  • 地元住民の声から生まれて、支持されているホテルであること
  • 災害時の避難拠点となっていること

等、私にとっては興奮ものでしたが、私のように”ゼロエネルギー”が滞在動機となり泊まりにくる客は全体の3%程度だそうです。(企業や団体の視察は除く)

明山社長も、「なんか素敵なホテルだな」とか「評判の良いホテルだから」と泊まりに来たら、実はゼロエネルギーホテルだったと気付いてくれる位で良いと思っている とのことでした。

旅行者がサステナビリティに熱心に取り組んでいる宿を選ぶという消費行動はまだまだ先の話になりそうですが、サステナビリティに取り組む宿に泊まった事実というのは、結果的に宿泊客にとって後味の良いものになるのだろうと思います。
宿泊業では、滞在前と滞在中の印象を良くすることは比較的手が付けやすくアイデアも出やすいですが、滞在後の印象を良くすることは難しく、ハードルが高いものです。
その点、サステナビリティ経営に注力している宿は滞在後の評価を上げることができるのが大きなアドバンテージとなるのだろうと考えさせられた滞在となりました。


Sentosa Development Corporation has joined as a Member of the Global Sustainable Tourism Council (GSTC)

Global Sustainable Tourism Council(GSTC)とは、グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会は、世界的な旅行および観光分野における観光産業界の専門家や、政府機関のための持続可能な開発の基準を定め、管理する国際非営利団体です。