Sustainable Tourism

『サステナブルタウン・北海道ニセコ町に学ぶ』

立命館アジア太平洋大学・サステイナビリティ観光学部のフィールド・スタディ『サステナブルタウン・北海道ニセコ町に学ぶ』に同行させていただきました。
(吉澤教授そして生徒の皆さん、快く受け入れてくださり、本当にありがとうございました!)

1日目は、
午前/ニセコ町役場視察研修⇒ニセコ高等学校視察
午後/綺羅街道⇒ニセコ町民センター⇒NPO法人運営の図書館あそぶっく
2日目は、レンタサイクルをして、
午前/鉄道遺産⇒ニセコ中央倉庫群⇒有島武郎記念館⇒道の駅「ニセコビュープラザ」
午後/ニセコチーズ工房⇒株式会社ニセコリゾート観光協会研修 
という行程でした。

視察を兼ね、避暑に行ったつもりが、普段以上に暑い滞在となりました。温度は私の住む横浜市と同じくらいの35℃。アスファルトの照り返しと湿度はない分楽ではあるものの、駅の待合室や公共施設にクーラーが無く、暑さをクールダウンさせる場所が無いのは厳しい環境でした。
最近のニュースで、「この1週間で熱中症搬送車が最も多かったのは北海道」とありましたが、納得で頷くしかありません。

さて、研修を振り返ります。
ニセコ町役場視察研修では、片山町長のご挨拶から始まり、「まちづくり基本条例」についての紹介から始まりました。

第一講座では、『ニセコ町のまちづくり~基本条例、「情報共有」と「住民参加」』というテーマで、企画環境課の大野様よりお話をいただきました。

  • ニセコ町まちづくり基本条例は、2000年12月27制定。翌4月1日施行。最終的には、議員10名の賛成、5名の反対で可決されたものの、長らく拮抗状態にあり、成立していなくてもおかしくない状況であった。
  • まちづくり基本条例導入の目的は、町長が変わっても制度が変わらないようにすること。
  • ニセコ町まちづくり基本条例は、2001年(平成13年)に日本で初めて制定されたまちの「憲法」。前文には、まちづくりは、町民一人ひとりが自ら考え行動することによる「自治」が基本であり、お任せ民主主義からの脱却を促すものである。
  • 条例の普遍的な2本の柱として、「情報共有」「住民参加」がある。
  • 情報共有には、会議の原則公開、会議録の公表、財政の透明化として予算編成の過程を全て公開する。
  • 住民参加には、町長室解放事業、まちづくり懇談会、まちづくりトーク、小5~中学生を対象にした子ども議会等がある。
  • 成果として、子どもを含め住民主導で、図書館の運営、ハロウィンカボチャ行事の運営、人口増加、起業数の増加、ルピシア・八海醸造等まちづくりに共感する企業の誘致ができている。

情報共有の取り組みに、1995年度から毎年町内全世帯に配布されている「もっと知りたいことしの仕事」という予算説明書があります。行政用語を極力排除して、中学生が読んでもわかるようにしたものですが、この取り組みは非常に優れていると思います。
専門知識や、ある意味では、【気合い】を入れないと読めない、理解できないものを発行したところで、情報共有ができているとは言えません。
ニュースや本を読むのと同じレベルで読める&理解できるものでないと情報共有物として発行しても意味がありません。
中学生でもわかるレベルというのが肝心で、そのくらいの理解度まで落とし込むには、説明する側もきちんと理解できないと作成できないはずです。ここに説明する側と説明を受ける側の理解を促すポイントがあるのでしょう。
こういうところから信頼が生まれ、対話・議論が進んでいくのだろうと考えています。

第二講座では、「ニセコ町の環境・SDGsの取り組み」というテーマで企画環境課の島﨑様にお話しいただきました。

  • 「土地共有」と「相互扶助」農場無償解放宣言/「今の世の中では、土地は役立つようなところは大部分個人によって私有されているありさまです。そこから人類に大害をなすような事柄が数えきれないほど生まれています。生産の大木となる自然物、すなわち空気、水、土のごとき類のものは、人間全体で使用すべきもので、一個人の利益ばかりのために、個人によって私有されるべきものではありません。それゆえこの農場(450ヘクタール)も、諸君全体の共有にして、諸君全体がこの土地に責任を感じ、助け合って、その生産を図るよう仕向けて行ってもらいたいと願うのです/有島武郎
  • ニセコ町の基本的な考え方
    現在のニセコ地域の経済(観光・農業)は、豊かな自然環境が基盤となっており、今ある自然環境が崩壊すれば、産業基盤が失われ、暮らしが保てないという危機感。
    情報共有と住民参加によって、環境・景観が守られ、観光・農業が成り立ち、暮らしが支えられている。
  • 開発を行う場合は、町長への事前協議と住民説明会を義務化し乱開発を防止している。
  • 環境創造都市ニセコ(2012年3月策定)として、【景観条例、地下水保全条例、水道水源保護条例、準都市計画、再エネ適正促進条例】がある。
  • ニセコ町が目指す持続可能なまち
    社会…真の住民自治
    環境…自然環境の継承
    経済…経済の自立
  • 外部機関からの評価/Green Destinations Top 100、グラスゴー宣言の署名、UNWTOベストツーリズムビレッジ受賞
  • NISEKO生活・モデル地区 ニセコミライ/分譲と賃貸の両方を雑多に入れ、別荘利用を禁止とする。こうすることで、旧来のニュータウン化を防ぎ、住民の多様性を確保する。

環境・景観は住民が主体性を持たないと保護できないということを改めて痛感します。地域住民が関心を持って守らないと誰が守るの?という話です。住民が短絡的な見方しかできないと目先の利益ばかり考えて環境・景観は取り返しのつかないものになります。そういった意味では、行政や専門家が住民を教育する必要性を強く感じます。環境・景観に興味・関心がない住民にどうしたら保護の必要性を感じてもらえるかが、SDGsやサステナブルツーリズム推進に欠かせないポイントです。
GSTCの基準の1つに「地域コミュニティを巻き込むこと」があり、その重要性が何度も強調されていますが、まさにこのことだと、ニセコで研修を受けて知識の点が線になりました。

第三講座では、「観光人材の育成の観点から『ニセコ高等学校』」というテーマで、北海道ニセコ高等学校の教諭中谷様にお話いただきました。

  • 「シビックプライドを持ったグローバル人材の育成」がテーマ
  • グローバル観光学部には、現在25名の生徒が在籍している。
  • 海外からニセコを視察に来る大学生をニセコ高校の学生がアテンドしたり、町内のホテルにインターンをすると、オーナーが外国人に変わっていたりするため、ニセコを出なくても国際交流ができている
  • 財源は、三菱財団と観光庁から出ているが決して十分ではない
  • 本社がマレーシアにあるYTLホテルズが学生のマレーシア研修費を助成してくれている
  • 授業では、GSTCのトレーニングプログラムを導入している。ニセコの事例を世界の事例に当てはめて、自分にとってのメリットややりがいにリンクさせるようにしている。
  • 品川女子学院、麗澤大学、筑波大学の留学生と、ニセコツアー、サステナブルスタディツアー、モニターツアーを企画・実行している

シビックプライドを持った~というのは良い考え方で、いずれニセコ高校から世界で活躍した人材がニセコに戻ってきて、地域に貢献すると良い循環が生まれるのだろうな、あるいは、世界で活躍する中で、ニセコの事例に立ち返り打開策を見つけるのだろうな、等と部外者ながらに感心してしまいました。
一方で、これだけ世界的にもサステナブルな町として注目されているニセコ町にある高校で、産業の柱である観光の人材を育てるのだからもっと十分な予算がついても良いのではと考えてしまいます。
ニセコには、まちづくりに共感して進出する企業があります。LUPICIAや八海醸造をはじめ、今後茅乃舎だしで有名な久原本家も進出するようです。そういった企業からも人材への投資が進むと相乗効果が生まれ、益々充実した町になるのでしょう。

2日目午後の株式会社ニセコリゾート観光協会研修では、「ニセコ町におけるサステナブルな取組を活かした観光協会事業について」というテーマで事務局長の中野様にお話をいただきました。

  • 第6次産業化の企業が盛ん 例)牧場や農場がペンション経営を始める等
  • SDGsはプロダクトアウト型。うまくいくのは珍しい事例。
  • タクシー、バス等の二次交通不足が喫緊の課題。2種を取ってタクシー運転手になりたいか?と問われても…。なり手がいないのが原因。GOとコラボしてタクシー10台が実証実験で導入される。スキー好きの若い人が冬場にニセコに来てタクシー運転手をして、冬の道の運転に自信を持てたり、外国人観光客を接客することにモチベーションを持ってくれないか検証予定。
  • 持続可能な観光に対する第三者認証があるが、これで観光客が増えるわけではない。どちらかというと、移住者増を意識している。
  • 将来像・・・町民や観光客から信頼される持続可能な国際リゾート
    ※SDGsへの共感を重視する中で嫌われる危険性もあると考えている。
  • SDGsニセコロゲイン・・・ゲームを通してチームビルディングと、ニセコ町内のSDGs関連施設を学ぶ3時間のプログラム。教育旅行、企業研修に取り入れている。
    ※ロゲイニングとは、オーストラリア発祥のナビゲーションスポーツ

ニセコリゾート観光協会は、ニセコ町と町民が50%ずつ出資して設立した、2003年に全国ではじめて株式会社化された観光協会です。地元の旅行案内業務に加え、道の駅ニセコビュープラザの運営を受託しています。
観光庁の資料によれば、総収入額は、旅行業が 30%、物販事業が 50%となっており、これら自主事業で8 割を占め、業務委託受任は 14%で、ニセコ町役場から観光案内業務などを受託しています。
※ただし、旅行業の売上げの内84%は受託販売(その多くがニセコ町民の町外への旅行)が占めており、着地型旅行商品の売上は小さいとのこと。

観光協会の役割として、ニセコ町でSDGsに取り組んでいる所を紹介すること を掲げており、2022年は70校の教育旅行を受け入れたそうです。そこで登場するのが、SDGsニセコロゲイン。仕組みは、指定されたスポットを回るオリエンテーリングのようなものですが、ニセコではそのスポットをSGDs関連施設としています。
これは他の地域で真似できるものではなく、ニセコ唯一で独自の企画です。今話題のどこの地域でも取り入れられるような謎解きイベントとは違って、地域に根差したものがスポットになっていて、なおかつSDGsの横軸でテーマが一貫しているのは、取り組み甲斐がありますし、国内外の教育旅行に相応しいの企画でしょう。

以下、視察先の写真です。

今回SDGsの先進都市と言われるニセコを訪れてみて、
サステナブルな地域として認識されるには、将来像を掲げて、住民を動かし、時間をかけて、小さな取り組みを根気よく積み上げていくことが求められる
と実感しました。
まさにバックキャスティングの考え方で、将来ありたい姿になるためにいま何ができるかを日々考えて取り組むことが大きな実を結んでいます。
ニセコ町の場合、その取っ掛かりが【まちづくり基本条例】であったのは言うまでもなく、23年の時を経てようやくいまの形になったのだと考えさせられました。

今回はSDGsの観点でしか町を見られなかったため、次回ニセコ町を訪れる際は思い切り観光を楽しみたいと思います。

日本初のゼロ・エネルギーホテル『ITOMACHI HOTEL 0』

愛媛県西条市に2023年5月にOPENした ITOMACHI HOTEL 0 は、環境省が定める「ZEB」認証を取得した日本初のホテルです。

愛媛県西条市に本社のある、半導体機器製造メーカーで再生エネルギーや地方創生、まちづくり事業も展開する株式会社アドバンテック社と、国内外で話題のホテルを手掛ける株式会社GOODTIME社が、隈研吾氏の建築設計により開業しました。

予約時に無理を言って、ホテルの話を伺いたいと申し出たところ、なんとGOODTIME社の明山社長がお見えになり、館内外をご案内くださいました!

ゼロエネルギーの仕組みが一目で理解できるインフォグラフィックス

ホテルのレセプションに到着するとまず目に飛び込んでくるのは、インフォグラフィックス。
(そこまで目立つように置かれているわけではないのですが、私のように、ゼロエネルギーを目的として泊まりに来る人にとっては目に飛び込んでくるはずです)
以下で紹介するのはデモ画面ですが、ホテルが消費しているエネルギー量と生み出しているエネルギー量が掲載されています。
ZEBのために蓄電池とコージェネ(CGS発電機)も用意したものの、開業以来使用したことが無く、太陽光発電で全てまかなえているとのことでした。
また災害時の避難所としても機能するように、電力供給が止まっても72時間自家発電で電気が使えるようになっています。

水道代が無料の西条市

西条市は湧き水が豊富で、上水道が無料の市としても知られています。
水の豊富な西条市ならではで、客室には水の流れる仕組みがみられる透明の蛇口があります。

サステナビリティを徹底した客室アメニティ

客室には当然ペットボトルの水は置いておらず、西条の湧き水が入ったボトルが用意されています。客室からウォーターボトルに水を汲んで出かけることも出来るし、街中で水を汲むことも出来ます。
併設する『いとまちマルシェ』で買い物をするときにも使えるエコバックも用意されています。

滞在に便利な設備『ゲストキッチン』を併設

宿泊スタイルは、朝食付きプランはあるものの、夕食は提供しておらず『いとまちマルシェ』や近隣の飲食店を紹介しています。あるいは、ホテル内にキッチンがあるのでよそで購入したものを持ちこんで調理をすることも出来ます。
訪問者に滞在中に街中に出てもらうことは、ホテルがサステナブルな地域づくりに貢献するのに重要な視点です。

サイクリストの滞在にも最適!

客室内にそのまま自転車を持ち込める仕様となっている上、駐輪場、コインランドリーもあり、サイクリストの滞在にも適しています。サステナブルツーリズムへの相性も抜群です。

『愛媛のたのしみ』を0から体験―愛媛づくしのホテル

  • 客室の色調は、伊予青石を基調にしたブルー
  • 朝食は、地元愛媛の産地から仕入れた旬の野菜や果物を使用
  • 砥部焼の窯元「遠藤窯」によるオリジナル湯呑と急須
  • 松山市「ICOI COFFEE」によるオリジナルドリップパック
  • 西条発の銘菓「たぬきまんじゅう」
  • 愛媛有数のお茶どころ新宮町で、古くから新宮茶のパイオニア「脇製茶」の緑茶
  • 愛媛在住の和紙デザイナーによる和紙アート
  • 西条の水の音をサンプリングした自動温泉構築システム「AISO」による館内音楽

等々、愛媛にどっぷり浸かった滞在ができます。愛媛を中心にホテル建設にかかわった方々が紹介されたパネルもあります。

ITOMACHI HOTEL 0 の生まれた経緯

実はこのホテル。ホテルありきで造られたのかとと思いきや、アドバンテック社が西条市の住民から意見を募って作られたのだそうです。
同社が再生可能エネルギーの拠点づくりのために地方をめぐる中で「人がいない」「何もない」「活気がない」という日本の地方都市の厳しい現実を実感させられました。地元西条も例外ではなく、「街のにぎわいを取り戻したいこと」、「若者や挑戦する人にチャンスを与えられる街にしたいこと」の2つを趣旨にした上で、隈研吾さんとプロジェクトを始動。住民の意見を取り入れたところ、ホテルという拠点が採用されたとのことでした。
どうしても「日本初」という冠にはこだわりたかったという明山社長。
水資源が豊富な西条市というブランドとも相まって、日本初のゼロエネルギーホテルが完成したようです。
オープン後は、市民から「帰省した親族が泊まる場所ができた」と喜ばれているそうです。

ITOMACHI HOTEL 0 を訪れてみて

念願叶って訪れたITOMACHI HOTEL 0では、

  • ゼロエネルギーを視覚にして伝えるインフォグラフィックス
  • 愛媛県産のものをとことん追求・表現した設備、備品、アメニティ、食事
  • ゼロエネルギーホテルを謳いながらも僅か60㎡の客室に最新のエアコンが3台も設置されていること、それが必要ないほどの客室の機密性の高さ
  • ホテル外への回遊を促す滞在の提案
  • 宿泊客に媚びる(主張する)ことなくスタイリッシュにサステナビリティを実現していること
  • 地元住民の声から生まれて、支持されているホテルであること
  • 災害時の避難拠点となっていること

等、私にとっては興奮ものでしたが、私のように”ゼロエネルギー”が滞在動機となり泊まりにくる客は全体の3%程度だそうです。(企業や団体の視察は除く)

明山社長も、「なんか素敵なホテルだな」とか「評判の良いホテルだから」と泊まりに来たら、実はゼロエネルギーホテルだったと気付いてくれる位で良いと思っている とのことでした。

旅行者がサステナビリティに熱心に取り組んでいる宿を選ぶという消費行動はまだまだ先の話になりそうですが、サステナビリティに取り組む宿に泊まった事実というのは、結果的に宿泊客にとって後味の良いものになるのだろうと思います。
宿泊業では、滞在前と滞在中の印象を良くすることは比較的手が付けやすくアイデアも出やすいですが、滞在後の印象を良くすることは難しく、ハードルが高いものです。
その点、サステナビリティ経営に注力している宿は滞在後の評価を上げることができるのが大きなアドバンテージとなるのだろうと考えさせられた滞在となりました。


Sentosa Development Corporation has joined as a Member of the Global Sustainable Tourism Council (GSTC)

Global Sustainable Tourism Council(GSTC)とは、グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会は、世界的な旅行および観光分野における観光産業界の専門家や、政府機関のための持続可能な開発の基準を定め、管理する国際非営利団体です。