Sustainable Tourism

SDGs達成の手段としてのゴアロードマップ

UNWTOは2023年6月、G20議長国のインドのナレッジパートナーとして、持続可能な開発目標を達成するための手段としての観光のためのゴアロードマップを作成しました。

この報告書では、SDGsを推進するための観光業のロードマップとして、以下の5つが優先順位順に掲載されています。

優先事項1. グリーンツーリズム
優先事項2. デジタル化
優先事項3. スキル
優先事項4. 観光業の中小零細企業
優先事項5. 目的地管理

また、G20 議長国であるインドの優先事項として以下の6つが紹介されていました。
1.グリーン開発、気候変動対策、LiFE(環境のためのライフスタイル)
2.包括的で回復⼒のある成⻑の加速
3.SDGsの進捗を加速する
4.技術変⾰とデジタルインフラストラクチャー
5.21世紀の多国間制度と3つのF ‒ ⾷料、燃料、肥料
6.女性主導の開発

いずれの優先事項にも、
・グリーン
・デジタル
・中小零細企業および女性起業家

についての言及があるのは、持続可能な観光業の発展には欠かせない3要素であることでしょう。

私もこの視点を軸に新規事業の立ち上げを考えていますが、それに加えて【訪問者を巻き込む】という視点も重要であると考えています。

この訪問者の参画については、ゴアロードマップの中にも言及があります。

優先分野5:目的地管理―目的地の全体的な競争力を高めるための目的地の戦略的管理
 5.2 新しいガバナンスモデルの作成
  5.2.2 訪問者を巻き込む取り組みを開発する

なお、こちらの分野に当てはまる課題としては、以下のものが挙げられています。
・観光分野を超えた連携
・適切な管理のための適切なデータ収集
・将来性と回復力を備えた目的地管理組織の構築
・あらゆる政府層とマルチレベルでのアプローチの採用
・新しいガバナンスモデルへの適応
・官民コミュニティの効果的なパートナーシップの構築

『訪問者を巻き込む取り組みを開発する』についてのより具体的な言及は下記の通りです。

⽬標 5.2.2: より持続可能な観光を推進し、保護する⼒を与えるために訪問者を巻き込む枠組みを開発する
1.⽬的地のマーケティング計画に、地元の持続可能な観光の取り組みに関する⽂⾔を統合する
2.様々な種類のサステナビリティデータを提供することで、訪問者は情報に基づいた選択を可能とする
3.代替⼿段を明確にすることで、訪問者が持続可能な旅⾏形態を選択する際のハードルをなくす
4.訪問者の責任ある⾏動に向けたアドバイスやオプションを通じた促進

観光業界のSDGsの開発目標は、受け入れ側(目的地および企業)だけの努力では務まりません。

観光業の持続可能な発展を達成するには、本来、観光客は観光地に「お邪魔している」(訪れさせてもらっている)という姿勢を持つ必要があります。

観光地を訪れる人は、それぞれの観光地の異なる状況に対して正しい情報と知識を持った上で、観光地やその地域に住む人々、コミュニティを敬って滞在するのがあるべき姿です。

    今後は、宿泊施設だけではなく、観光客側を評価する認証制度取り入れるのも一案でしょう。

    日本初のゼロ・エネルギーホテル『ITOMACHI HOTEL 0』

    愛媛県西条市に2023年5月にOPENした ITOMACHI HOTEL 0 は、環境省が定める「ZEB」認証を取得した日本初のホテルです。

    愛媛県西条市に本社のある、半導体機器製造メーカーで再生エネルギーや地方創生、まちづくり事業も展開する株式会社アドバンテック社と、国内外で話題のホテルを手掛ける株式会社GOODTIME社が、隈研吾氏の建築設計により開業しました。

    予約時に無理を言って、ホテルの話を伺いたいと申し出たところ、なんとGOODTIME社の明山社長がお見えになり、館内外をご案内くださいました!

    ゼロエネルギーの仕組みが一目で理解できるインフォグラフィックス

    ホテルのレセプションに到着するとまず目に飛び込んでくるのは、インフォグラフィックス。
    (そこまで目立つように置かれているわけではないのですが、私のように、ゼロエネルギーを目的として泊まりに来る人にとっては目に飛び込んでくるはずです)
    以下で紹介するのはデモ画面ですが、ホテルが消費しているエネルギー量と生み出しているエネルギー量が掲載されています。
    ZEBのために蓄電池とコージェネ(CGS発電機)も用意したものの、開業以来使用したことが無く、太陽光発電で全てまかなえているとのことでした。
    また災害時の避難所としても機能するように、電力供給が止まっても72時間自家発電で電気が使えるようになっています。

    水道代が無料の西条市

    西条市は湧き水が豊富で、上水道が無料の市としても知られています。
    水の豊富な西条市ならではで、客室には水の流れる仕組みがみられる透明の蛇口があります。

    サステナビリティを徹底した客室アメニティ

    客室には当然ペットボトルの水は置いておらず、西条の湧き水が入ったボトルが用意されています。客室からウォーターボトルに水を汲んで出かけることも出来るし、街中で水を汲むことも出来ます。
    併設する『いとまちマルシェ』で買い物をするときにも使えるエコバックも用意されています。

    滞在に便利な設備『ゲストキッチン』を併設

    宿泊スタイルは、朝食付きプランはあるものの、夕食は提供しておらず『いとまちマルシェ』や近隣の飲食店を紹介しています。あるいは、ホテル内にキッチンがあるのでよそで購入したものを持ちこんで調理をすることも出来ます。
    訪問者に滞在中に街中に出てもらうことは、ホテルがサステナブルな地域づくりに貢献するのに重要な視点です。

    サイクリストの滞在にも最適!

    客室内にそのまま自転車を持ち込める仕様となっている上、駐輪場、コインランドリーもあり、サイクリストの滞在にも適しています。サステナブルツーリズムへの相性も抜群です。

    『愛媛のたのしみ』を0から体験―愛媛づくしのホテル

    • 客室の色調は、伊予青石を基調にしたブルー
    • 朝食は、地元愛媛の産地から仕入れた旬の野菜や果物を使用
    • 砥部焼の窯元「遠藤窯」によるオリジナル湯呑と急須
    • 松山市「ICOI COFFEE」によるオリジナルドリップパック
    • 西条発の銘菓「たぬきまんじゅう」
    • 愛媛有数のお茶どころ新宮町で、古くから新宮茶のパイオニア「脇製茶」の緑茶
    • 愛媛在住の和紙デザイナーによる和紙アート
    • 西条の水の音をサンプリングした自動温泉構築システム「AISO」による館内音楽

    等々、愛媛にどっぷり浸かった滞在ができます。愛媛を中心にホテル建設にかかわった方々が紹介されたパネルもあります。

    ITOMACHI HOTEL 0 の生まれた経緯

    実はこのホテル。ホテルありきで造られたのかとと思いきや、アドバンテック社が西条市の住民から意見を募って作られたのだそうです。
    同社が再生可能エネルギーの拠点づくりのために地方をめぐる中で「人がいない」「何もない」「活気がない」という日本の地方都市の厳しい現実を実感させられました。地元西条も例外ではなく、「街のにぎわいを取り戻したいこと」、「若者や挑戦する人にチャンスを与えられる街にしたいこと」の2つを趣旨にした上で、隈研吾さんとプロジェクトを始動。住民の意見を取り入れたところ、ホテルという拠点が採用されたとのことでした。
    どうしても「日本初」という冠にはこだわりたかったという明山社長。
    水資源が豊富な西条市というブランドとも相まって、日本初のゼロエネルギーホテルが完成したようです。
    オープン後は、市民から「帰省した親族が泊まる場所ができた」と喜ばれているそうです。

    ITOMACHI HOTEL 0 を訪れてみて

    念願叶って訪れたITOMACHI HOTEL 0では、

    • ゼロエネルギーを視覚にして伝えるインフォグラフィックス
    • 愛媛県産のものをとことん追求・表現した設備、備品、アメニティ、食事
    • ゼロエネルギーホテルを謳いながらも僅か60㎡の客室に最新のエアコンが3台も設置されていること、それが必要ないほどの客室の機密性の高さ
    • ホテル外への回遊を促す滞在の提案
    • 宿泊客に媚びる(主張する)ことなくスタイリッシュにサステナビリティを実現していること
    • 地元住民の声から生まれて、支持されているホテルであること
    • 災害時の避難拠点となっていること

    等、私にとっては興奮ものでしたが、私のように”ゼロエネルギー”が滞在動機となり泊まりにくる客は全体の3%程度だそうです。(企業や団体の視察は除く)

    明山社長も、「なんか素敵なホテルだな」とか「評判の良いホテルだから」と泊まりに来たら、実はゼロエネルギーホテルだったと気付いてくれる位で良いと思っている とのことでした。

    旅行者がサステナビリティに熱心に取り組んでいる宿を選ぶという消費行動はまだまだ先の話になりそうですが、サステナビリティに取り組む宿に泊まった事実というのは、結果的に宿泊客にとって後味の良いものになるのだろうと思います。
    宿泊業では、滞在前と滞在中の印象を良くすることは比較的手が付けやすくアイデアも出やすいですが、滞在後の印象を良くすることは難しく、ハードルが高いものです。
    その点、サステナビリティ経営に注力している宿は滞在後の評価を上げることができるのが大きなアドバンテージとなるのだろうと考えさせられた滞在となりました。


    Sentosa Development Corporation has joined as a Member of the Global Sustainable Tourism Council (GSTC)

    Global Sustainable Tourism Council(GSTC)とは、グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会は、世界的な旅行および観光分野における観光産業界の専門家や、政府機関のための持続可能な開発の基準を定め、管理する国際非営利団体です。