Sustainable Tourism

シンガポール「ホテル サステナビリティ ロードマップ」の開始

2022年3月、シンガポールホテル協会 (SHA) とシンガポール政府観光局 (STB) は、ホテルサステナビリティ ロードマップの立ち上げを発表しました。



シンガポール グリーン プラン 2030 に沿って、ロードマップはホテルがサステナビリティへの道のりで採用すべき明確な目標と戦略を設定しています。これにより、業界は持続可能な開発目標に貢献し、グリーン経済によってもたらされる新しい恩恵を獲得し、企業のレジリエンスを強化し、新規顧客を開拓することを狙いとしています。



ロードマップでは、ホテル業界向けに次の 2 つの目標を設定しています。

  • シンガポールのホテル客室在庫の 60% が、2025 年までに国際的に認められたホテルの持続可能性認証を取得する。
  • シンガポールのホテルは、2023 年までに排出量の追跡を開始し、2030 年までに排出量を削減し、2050 年までにネットゼロを達成することを目指す。


ある旅行会社の記事によれば、2021年時点のシンガポールのホテル数は約410軒、67,000部屋の客室があるようですから、約4万室・概算で245軒のホテルが2025年までに国際認証を取得すると宣言しています。
このロードマップが策定されたのが、冒頭にある通り2022年の3月ですから、3年足らずで半数以上のホテルにサステナビリティ国際認証を取得することが求められています。(ある記事によれば、ロードマップ立ち上げ当時の取得率は10%)



さて、下記の通りロードマップでは、ホテルが取るべき 4 つの戦略と具体的な取り組みも示しています。



戦略1 持続可能性の基準を引き上げ、認証を取得する
  • 国際的な認証基準に沿った環境に優しい施設と運営
  • 業界全体のサステナビリティ資源を活用し、成功事例の吸収
  • 新しい環境に優しい仕事の創出及び持続可能性に焦点を当てた能力開発
戦略2 持続可能なソリューションをテストし、採用する
  • サステナビリティ関連課題のエリア特定
  • 新しいソリューションを試験運用するためのソリューション プロバイダーとホテル間のパートナーシップ
  • 実績のある持続可能性解決策の大規模採用
戦略3 持続可能なホテルのコンセプトと体験を開発する
  • グリーンホテルのリーディングブランドの確立
  • 農場から食卓への食事体験
  • 屋上ハーブガーデン
  • 環境に配慮した寝具の選択
  • ロイヤルティ プログラムへのサステナビリティ インセンティブの導入
戦略4 サステナビリティへの取り組みに対する意識を高め、ホテルのゲストにサステナブルな消費習慣を促進する
  • ハウスキーピングのリクエスト制導入
  • 持続可能なアメニティの導入
  • ペットボトルの代わりになる室内ろ過水栓の導入
  • ホテルのサステナビリティへの取り組みと商品をマーケティングに導入


ロードマップを掲げるだけではなく、ホテル事業者向けの事業改善や人材教育のための補助金も設けられています。

このようにシンガポールでは政府とホテル業界が協力して、明確なKPIを掲げながら2050年のネットゼロへ向けて推進中です。



出所:https://www.stb.gov.sg/content/stb/en/media-centre/media-releases/Launch-of-the-Hotel-Sustainability-Roadmap-by-STB-and-SHA.html

日本初のゼロ・エネルギーホテル『ITOMACHI HOTEL 0』

愛媛県西条市に2023年5月にOPENした ITOMACHI HOTEL 0 は、環境省が定める「ZEB」認証を取得した日本初のホテルです。

愛媛県西条市に本社のある、半導体機器製造メーカーで再生エネルギーや地方創生、まちづくり事業も展開する株式会社アドバンテック社と、国内外で話題のホテルを手掛ける株式会社GOODTIME社が、隈研吾氏の建築設計により開業しました。

予約時に無理を言って、ホテルの話を伺いたいと申し出たところ、なんとGOODTIME社の明山社長がお見えになり、館内外をご案内くださいました!

ゼロエネルギーの仕組みが一目で理解できるインフォグラフィックス

ホテルのレセプションに到着するとまず目に飛び込んでくるのは、インフォグラフィックス。
(そこまで目立つように置かれているわけではないのですが、私のように、ゼロエネルギーを目的として泊まりに来る人にとっては目に飛び込んでくるはずです)
以下で紹介するのはデモ画面ですが、ホテルが消費しているエネルギー量と生み出しているエネルギー量が掲載されています。
ZEBのために蓄電池とコージェネ(CGS発電機)も用意したものの、開業以来使用したことが無く、太陽光発電で全てまかなえているとのことでした。
また災害時の避難所としても機能するように、電力供給が止まっても72時間自家発電で電気が使えるようになっています。

水道代が無料の西条市

西条市は湧き水が豊富で、上水道が無料の市としても知られています。
水の豊富な西条市ならではで、客室には水の流れる仕組みがみられる透明の蛇口があります。

サステナビリティを徹底した客室アメニティ

客室には当然ペットボトルの水は置いておらず、西条の湧き水が入ったボトルが用意されています。客室からウォーターボトルに水を汲んで出かけることも出来るし、街中で水を汲むことも出来ます。
併設する『いとまちマルシェ』で買い物をするときにも使えるエコバックも用意されています。

滞在に便利な設備『ゲストキッチン』を併設

宿泊スタイルは、朝食付きプランはあるものの、夕食は提供しておらず『いとまちマルシェ』や近隣の飲食店を紹介しています。あるいは、ホテル内にキッチンがあるのでよそで購入したものを持ちこんで調理をすることも出来ます。
訪問者に滞在中に街中に出てもらうことは、ホテルがサステナブルな地域づくりに貢献するのに重要な視点です。

サイクリストの滞在にも最適!

客室内にそのまま自転車を持ち込める仕様となっている上、駐輪場、コインランドリーもあり、サイクリストの滞在にも適しています。サステナブルツーリズムへの相性も抜群です。

『愛媛のたのしみ』を0から体験―愛媛づくしのホテル

  • 客室の色調は、伊予青石を基調にしたブルー
  • 朝食は、地元愛媛の産地から仕入れた旬の野菜や果物を使用
  • 砥部焼の窯元「遠藤窯」によるオリジナル湯呑と急須
  • 松山市「ICOI COFFEE」によるオリジナルドリップパック
  • 西条発の銘菓「たぬきまんじゅう」
  • 愛媛有数のお茶どころ新宮町で、古くから新宮茶のパイオニア「脇製茶」の緑茶
  • 愛媛在住の和紙デザイナーによる和紙アート
  • 西条の水の音をサンプリングした自動温泉構築システム「AISO」による館内音楽

等々、愛媛にどっぷり浸かった滞在ができます。愛媛を中心にホテル建設にかかわった方々が紹介されたパネルもあります。

ITOMACHI HOTEL 0 の生まれた経緯

実はこのホテル。ホテルありきで造られたのかとと思いきや、アドバンテック社が西条市の住民から意見を募って作られたのだそうです。
同社が再生可能エネルギーの拠点づくりのために地方をめぐる中で「人がいない」「何もない」「活気がない」という日本の地方都市の厳しい現実を実感させられました。地元西条も例外ではなく、「街のにぎわいを取り戻したいこと」、「若者や挑戦する人にチャンスを与えられる街にしたいこと」の2つを趣旨にした上で、隈研吾さんとプロジェクトを始動。住民の意見を取り入れたところ、ホテルという拠点が採用されたとのことでした。
どうしても「日本初」という冠にはこだわりたかったという明山社長。
水資源が豊富な西条市というブランドとも相まって、日本初のゼロエネルギーホテルが完成したようです。
オープン後は、市民から「帰省した親族が泊まる場所ができた」と喜ばれているそうです。

ITOMACHI HOTEL 0 を訪れてみて

念願叶って訪れたITOMACHI HOTEL 0では、

  • ゼロエネルギーを視覚にして伝えるインフォグラフィックス
  • 愛媛県産のものをとことん追求・表現した設備、備品、アメニティ、食事
  • ゼロエネルギーホテルを謳いながらも僅か60㎡の客室に最新のエアコンが3台も設置されていること、それが必要ないほどの客室の機密性の高さ
  • ホテル外への回遊を促す滞在の提案
  • 宿泊客に媚びる(主張する)ことなくスタイリッシュにサステナビリティを実現していること
  • 地元住民の声から生まれて、支持されているホテルであること
  • 災害時の避難拠点となっていること

等、私にとっては興奮ものでしたが、私のように”ゼロエネルギー”が滞在動機となり泊まりにくる客は全体の3%程度だそうです。(企業や団体の視察は除く)

明山社長も、「なんか素敵なホテルだな」とか「評判の良いホテルだから」と泊まりに来たら、実はゼロエネルギーホテルだったと気付いてくれる位で良いと思っている とのことでした。

旅行者がサステナビリティに熱心に取り組んでいる宿を選ぶという消費行動はまだまだ先の話になりそうですが、サステナビリティに取り組む宿に泊まった事実というのは、結果的に宿泊客にとって後味の良いものになるのだろうと思います。
宿泊業では、滞在前と滞在中の印象を良くすることは比較的手が付けやすくアイデアも出やすいですが、滞在後の印象を良くすることは難しく、ハードルが高いものです。
その点、サステナビリティ経営に注力している宿は滞在後の評価を上げることができるのが大きなアドバンテージとなるのだろうと考えさせられた滞在となりました。


Sentosa Development Corporation has joined as a Member of the Global Sustainable Tourism Council (GSTC)

Global Sustainable Tourism Council(GSTC)とは、グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会は、世界的な旅行および観光分野における観光産業界の専門家や、政府機関のための持続可能な開発の基準を定め、管理する国際非営利団体です。