Sustainable Tourism

サステナブルであるために楽しい時間をあきらめる必要はない。サステナビリティは訪れる理由ではない。しかし、再び訪れる理由である。

2022年10月28日開催、公益財団法人日本交通公社 第32回 旅行動向シンポジウム 内の講座「ポストコロナの欧州観光事情」を受講しました。
今回のタイトルは、その中で取り上げられていたデンマークの資料からの引用です。

起業家の方に、観光×サステナビリティのビジネスプランを話すと、

・「観光とサステナビリティが結びつかない」

・「旅行先に行ってまでサステナビリティを考えたくない」

という意見が返ってくることが多く、どうしたものかと考えていましたが、

サステナブルであるために楽しい時間をあきらめる必要はない。
サステナビリティは訪れる理由ではない。しかし、再び訪れる理由である。

というデンマークのキャッチコピーは、大いに納得のいくものでした。

さて、セミナーでは、デンマーク・バルト海の真ん中にある島『ボーンホルム』が、EUで最もサステナブルな島として紹介されていましたので、『ボーンホルム』について調べてみました。

ボーンホルムは、バルト海のコペンハーゲンの東約 200 キロメートルにある小さな島。欧州委員会から授与される「the RESponsible Island prize」(2020年)の初の受賞者で、50万ユーロが贈られ、‘Bright Green Island’というニックネームも付けられました。

出所:https://ec.europa.eu/info/sites/default/files/research_and_innovation/funding/documents/ec_rtd_responsible-island-bornholm.pdf



なぜボーンホルムが、このようなサステナブルな島になったのかというと、危機を持続可能性に変えたことがきっかけでした。1990 年代に漁獲量が激減し、その分の雇用の創出と、自給自足になるための新しい方法を見つける必要に迫られました。
その答えを持続可能性に見出し、ボーンホルムは島に35基の大型風力タービンと複数のバイオマス発電所を建設しています。その後も地方自治体主導で、早い段階から石炭と石油の段階的廃止を開始。太陽電池、風力タービン、バイオマス、地域熱供給を組み合わせた100% 再生可能エネルギー システムを開発しました。

ボーンホルムは、2025 年までに CO2 ニュートラル、2032 年までに廃棄物ゼロ、2035 年までにゼロエミッション コミュニティになることを目指しています。

気候変動や持続可能性が重要課題となっている今となっては、過去の危機を持続可能性へのシフトで乗り越えたボーンホルムの取り組みは大正解だったと評価できるでしょう。

先述のように、だからと言って観光客が「訪れたい!」と魅力に感じる観光地であるかと言えばそうではありません。旅行に行きたい動機は様々ありますが、
・この環境に身を置きたい!
・ここ(自然・施設・遺跡等)に行きたい!
・この体験がしたい!
・この風景の写真を撮りたい!
・この料理が食べたい!
というのが一般的な衝動で、
・サステナビリティに取り組んでいるからここに行きたい
とはなりません。

但し、どうせ行くならサステナビリティに取り組んでいる観光地に行きたいという感情はこれから益々増え、判断基準の主流になっていくものと思います。
どうせ~ならという感情は、複数ある候補の中から選ぶときに生まれるものですので、まずは訪れたくなる観光地づくりをすることが大事であることは自明のことです。これからの時代はその観光地づくりをする際に、目先にの収支に囚われず、包括的なサステナブルな視点を以って取り組んでいることが非常に重要となっていると考えます。

Source: https://stateofgreen.com/en/news/europes-most-sustainable-islands-are-danish/

日本初のゼロ・エネルギーホテル『ITOMACHI HOTEL 0』

愛媛県西条市に2023年5月にOPENした ITOMACHI HOTEL 0 は、環境省が定める「ZEB」認証を取得した日本初のホテルです。

愛媛県西条市に本社のある、半導体機器製造メーカーで再生エネルギーや地方創生、まちづくり事業も展開する株式会社アドバンテック社と、国内外で話題のホテルを手掛ける株式会社GOODTIME社が、隈研吾氏の建築設計により開業しました。

予約時に無理を言って、ホテルの話を伺いたいと申し出たところ、なんとGOODTIME社の明山社長がお見えになり、館内外をご案内くださいました!

ゼロエネルギーの仕組みが一目で理解できるインフォグラフィックス

ホテルのレセプションに到着するとまず目に飛び込んでくるのは、インフォグラフィックス。
(そこまで目立つように置かれているわけではないのですが、私のように、ゼロエネルギーを目的として泊まりに来る人にとっては目に飛び込んでくるはずです)
以下で紹介するのはデモ画面ですが、ホテルが消費しているエネルギー量と生み出しているエネルギー量が掲載されています。
ZEBのために蓄電池とコージェネ(CGS発電機)も用意したものの、開業以来使用したことが無く、太陽光発電で全てまかなえているとのことでした。
また災害時の避難所としても機能するように、電力供給が止まっても72時間自家発電で電気が使えるようになっています。

水道代が無料の西条市

西条市は湧き水が豊富で、上水道が無料の市としても知られています。
水の豊富な西条市ならではで、客室には水の流れる仕組みがみられる透明の蛇口があります。

サステナビリティを徹底した客室アメニティ

客室には当然ペットボトルの水は置いておらず、西条の湧き水が入ったボトルが用意されています。客室からウォーターボトルに水を汲んで出かけることも出来るし、街中で水を汲むことも出来ます。
併設する『いとまちマルシェ』で買い物をするときにも使えるエコバックも用意されています。

滞在に便利な設備『ゲストキッチン』を併設

宿泊スタイルは、朝食付きプランはあるものの、夕食は提供しておらず『いとまちマルシェ』や近隣の飲食店を紹介しています。あるいは、ホテル内にキッチンがあるのでよそで購入したものを持ちこんで調理をすることも出来ます。
訪問者に滞在中に街中に出てもらうことは、ホテルがサステナブルな地域づくりに貢献するのに重要な視点です。

サイクリストの滞在にも最適!

客室内にそのまま自転車を持ち込める仕様となっている上、駐輪場、コインランドリーもあり、サイクリストの滞在にも適しています。サステナブルツーリズムへの相性も抜群です。

『愛媛のたのしみ』を0から体験―愛媛づくしのホテル

  • 客室の色調は、伊予青石を基調にしたブルー
  • 朝食は、地元愛媛の産地から仕入れた旬の野菜や果物を使用
  • 砥部焼の窯元「遠藤窯」によるオリジナル湯呑と急須
  • 松山市「ICOI COFFEE」によるオリジナルドリップパック
  • 西条発の銘菓「たぬきまんじゅう」
  • 愛媛有数のお茶どころ新宮町で、古くから新宮茶のパイオニア「脇製茶」の緑茶
  • 愛媛在住の和紙デザイナーによる和紙アート
  • 西条の水の音をサンプリングした自動温泉構築システム「AISO」による館内音楽

等々、愛媛にどっぷり浸かった滞在ができます。愛媛を中心にホテル建設にかかわった方々が紹介されたパネルもあります。

ITOMACHI HOTEL 0 の生まれた経緯

実はこのホテル。ホテルありきで造られたのかとと思いきや、アドバンテック社が西条市の住民から意見を募って作られたのだそうです。
同社が再生可能エネルギーの拠点づくりのために地方をめぐる中で「人がいない」「何もない」「活気がない」という日本の地方都市の厳しい現実を実感させられました。地元西条も例外ではなく、「街のにぎわいを取り戻したいこと」、「若者や挑戦する人にチャンスを与えられる街にしたいこと」の2つを趣旨にした上で、隈研吾さんとプロジェクトを始動。住民の意見を取り入れたところ、ホテルという拠点が採用されたとのことでした。
どうしても「日本初」という冠にはこだわりたかったという明山社長。
水資源が豊富な西条市というブランドとも相まって、日本初のゼロエネルギーホテルが完成したようです。
オープン後は、市民から「帰省した親族が泊まる場所ができた」と喜ばれているそうです。

ITOMACHI HOTEL 0 を訪れてみて

念願叶って訪れたITOMACHI HOTEL 0では、

  • ゼロエネルギーを視覚にして伝えるインフォグラフィックス
  • 愛媛県産のものをとことん追求・表現した設備、備品、アメニティ、食事
  • ゼロエネルギーホテルを謳いながらも僅か60㎡の客室に最新のエアコンが3台も設置されていること、それが必要ないほどの客室の機密性の高さ
  • ホテル外への回遊を促す滞在の提案
  • 宿泊客に媚びる(主張する)ことなくスタイリッシュにサステナビリティを実現していること
  • 地元住民の声から生まれて、支持されているホテルであること
  • 災害時の避難拠点となっていること

等、私にとっては興奮ものでしたが、私のように”ゼロエネルギー”が滞在動機となり泊まりにくる客は全体の3%程度だそうです。(企業や団体の視察は除く)

明山社長も、「なんか素敵なホテルだな」とか「評判の良いホテルだから」と泊まりに来たら、実はゼロエネルギーホテルだったと気付いてくれる位で良いと思っている とのことでした。

旅行者がサステナビリティに熱心に取り組んでいる宿を選ぶという消費行動はまだまだ先の話になりそうですが、サステナビリティに取り組む宿に泊まった事実というのは、結果的に宿泊客にとって後味の良いものになるのだろうと思います。
宿泊業では、滞在前と滞在中の印象を良くすることは比較的手が付けやすくアイデアも出やすいですが、滞在後の印象を良くすることは難しく、ハードルが高いものです。
その点、サステナビリティ経営に注力している宿は滞在後の評価を上げることができるのが大きなアドバンテージとなるのだろうと考えさせられた滞在となりました。


Sentosa Development Corporation has joined as a Member of the Global Sustainable Tourism Council (GSTC)

Global Sustainable Tourism Council(GSTC)とは、グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会は、世界的な旅行および観光分野における観光産業界の専門家や、政府機関のための持続可能な開発の基準を定め、管理する国際非営利団体です。