世界観光デー報告書:観光の再考 – 危機から変革へ


UNWTOが発行した「Rethinking Tourism From Crisis to Transformation」のレポートを読みました。
以下に要約を記載します。
国連世界観光機関 (UNWTO)の6つの行動指針
- 世界的な議題における観光のメインストリーム化
- 持続可能な観光開発の促進
- 観光教育および能力開発の推進
- 観光競争力の向上
- 貧困削減とSDGs開発目標達成への貢献
- 民間企業や地域・地元観光業とのパートナーシップの構築
パンデミック前の観光業界
- 2019 年、世界の国際観光旅客数は年間 15 億人に達し、2009 年から 2019 年の10年間に年平均 5%、合計で62%の成長となった。
- 観光収入は1.7兆米ドルであり、これは世界のサービス貿易額の28%、商品を含めた輸出全体の内の7%を占める規模となった。
- 観光の経済規模は3.5兆米ドルに達し、世界のGDPの4%に達した。
- このようにして観光は世界の社会経済を担うメインセクターとなり、全ての人に機会を生み出し、持続可能な開発等の難関な課題に解決策を提供するという唯一無二な特性を持ったものとして認識された。

未曾有の危機に直面して

COVID-19のパンデミックに直面して、UNWTOは以下の取り組みを行った。
- 観光に依存して生活を送る何百万人もの人を支援する包括的で適切なコーディネートメカニズムの作成
- 雇用を維持し、危機の差し迫った影響を緩和するための政策措置について各国にガイダンスを提供
- 信頼できるデータとガイダンスの提供
信頼の構築 安全で倫理的な観光の促進
- 早急に観光業をリスタートして、観光従事者の生活を担保することが重要ではあるものの、UNWTOは、回復を急ぎ過ぎることで、より公正な社会を構築するための長期的な目標を犠牲にしてはならない。さらに、この小休止が倫理的な旅行活動の再出発になる、と認識した。
- 世界観光倫理委員会(World Committee on Tourism Ethics ・WCTE)は、旅行制限、検疫条件、COVID-freeラベル、免疫パスポートや証明書等、公衆衛生の懸念だけでなく、以下のUNWTOのグローバル倫理規定を順守する必要性を強調した。
- 差別の禁止と公平
- アクセシビリティ
- 観光客と消費者の保護
- データプライバシーの保護
- 説明責任を果たした上での決断の権利
- 労働者の権利と社会的保護
人材を第一優先に、仕事とスキルの支援を
- 観光は究極の人と人とのセクターであり、UNWTO は、教育、訓練、研究を優先し、現在および将来の観光市場の需要を満たすためのスキルと経験、そして最終的には、観光地の競争力と持続可能性を強化できる人材を育てることをを目的としている。
- 観光教育プログラムは、前例のない人数が受講し、2020 年 3 月からの 18 か月間で、100カ国から20,000人以上の学生を迎えた。
- 観光とホスピタリティの世界トップ5の機関(IE University, Les Roches, Glion Institute of Higher Education, École Ducasse and the Swiss Education Group)と連携し、UNWTOは19のオンラインコース(スペイン語、英語、アラビア語)を提供している。
- 一方、UNWTO と Google は、UNWTO 加盟国の観光大臣、主要な旅行協会、観光局向けのオンライン アクセラレーション プログラムで提携している。
- UNWTO は、職業支援の為にJobs Factory Hoscoを始めた。この革新的なプラットフォームでは、才能のある人と雇用主をマッチングさせることができる。
Tourism Recovery Tracker
- 旅行の制限に対応するため、進化する状況と世界の観光を復活させることを目的に、最も包括的な観光ダッシュボード「Tourism Recovery Tracker」を立ち上げ、220ヶ国もの月ごとの主要なパフォーマンス指標を無料公開している。

未来への投資
- The European Bank for Reconstruction and Development (EBRD)が、UNWTO と提携し、世銀が投資する38の経済圏で観光部門の後押しをすることをコミットした。
- 気候資金の移転を加速し、例えば、Hotel Energy Solutions (HES)やNearly Zero Energy Hotels (neZEH)のような効率的なツール等、観光セクターでグリーン技術を使いやすくするよう推進する。
- また、国際貿易センター(International Trade Centre・ ITC)は UNWTO と提携して持続可能な観光に焦点を当てたプロジェクトに技術支援を提供するために協力する。
アフリカの議題
アフリカの観光インフラを強化し、航空接続を強化し、ビザの円滑化を容易にし、観光客の安全とセキュリティを確保し、人的資本の開発に投資する。
アフリカの豊かな遺産、人々、文化の多様性、美食をもってアフリカのイメージを向上させる。
アメリカの議題
- デジタル化と新しいアイデアで環境に優しいビジネスモデルへの投資を促進し、持続可能で将来を見据えたレジリエンス(回復力)のための計画策定。
- 「ビヨンド・ツーリズム・イノベーション・チャレンジ」 では、サステナビリティと機会の創出を特定。
- 2021年5月、観光を持続可能な開発の柱にするというコミットメントとして、地域の指導者がプンタカナ宣言に署名。
- 「Indigenous Women in Tourism」(先住民族の女性のツーリズム)は、先住民族の女性に力を与えることに焦点を当てる。このプロジェクトはパリ平和フォーラム2020での最も強調されたプロジェクトの1つである。
アジア太平洋地域の議題
- 観光に依存しているアジア太平洋地域では、観光客の想定外の減少が経済に打撃を与え、多くの人材の雇用が危険にさらされた。
- イノベーションとデジタル化を通じたツーリズムレジリエンスの強化と、ガストロノミー ツーリズムの可能性に注目している。
- 2022年の世界観光デーに合わせて観光の再定義を行っている。
ヨーロッパの議題
- 観光はヨーロッパ経済の中心的な柱であり、主要な雇用主であり、大陸を超えて何百万人もの人々に雇用機会を提供している。
- 欧州機関のリーダは、この困難な時期に観光を支援するというコミットメントを示している。
- The Barcelona Call to Actionは、国際的なベンチマークになるように設計されており、その枠組みは、新しく、より倫理的でサステナブルな観光モデルの枠組みとなっている。
民間セクターとの協力
- 500 を超える企業、教育研究機関、観光地、NGO が集まる UNWTO 加盟メンバーは、メンバーが情報を共有し、さらなる行動を起こす対話に参加するためのスペースを提供する。
- UNWTO は、加盟メンバーのネットワークを拡大し続けている。例えばNetflixと協力することで、新しい視聴者にその重要性を示すことができる。
- 2021年12月にスペインのマドリッドで開催された第24回UNWTO総会で、取締役会の権限を深め、組織内での役割を強化するというアフィリエイトメンバーの新しい法的枠組みが承認された。
観光客保護のための国際コード(International Code for the Protection of Tourists / ICPT)
- Covid-19の緊急事態では、何千人もの観光客が海外で立ち往生し多くの観光客が助けを受けられずに取り残された。観光客の権利に大きな不確実性が生じ、大きな損害を与えた。
- この画期的なコードは観光客保護のための一連の最低限の国際基準を提供。2022年9月現在、エクアドル、ギニアビサウ、モルドバ、パラグアイの4か国が採択している。
コミュニケーションの優位性への理解
- 経済、社会、地球に対する観光の関連性と重要性を明確にするためにUNWTOはリーディングテクノロジーとコミュニケーションプラットフォームであるFacebook、Instagram、WhatsAppを運営するMetaとのパートナーシップを発表。
- Tourism Recovery Playbookや、第77回国連総会のthe Global Youth Tourism SummitはInstagramのサポートを受けた。
- 「See the World Through My Eyes」プロジェクトは、若者やクリエータが故郷の観光大使になる為にデザインされている。
持続可能な開発のための観光業と2030年アジェンダ
- 観光は、気候変動に対して非常に脆弱であると同時に、気候変動に貢献している。観光セクターへの脅威は多様で、気象現象、汚染、水不足、生物多様性の損失、観光資産やアトラクションへの損害等直接的および間接的な影響も含まれる。したがって、観光における気候変動対策を加速することは、回復力にとって最も重要。
- 地球のためだけでなく、観光部門の競争力・回復力を高めるために環境に配慮した変革が必要。
- 2020 年世界環境デーを記念して、UNWTO が主導した「One Planet 持続可能な観光プログラム」グローバル・ツーリズムの新しいビジョンを発表。人々と地球、観光業の繁栄のニーズのバランスを取ることを強調。そしてUNWTOはプラスチック汚染との戦いにも力を入れている。エレン・マッカーサー財団(※)と協力してプラスチックフットプリントを削減し、サプライヤーのエンゲージメントを高め、廃棄物処理業者を監視し、行動の透明性を確保する。
- INSTO(International Network of Sustainable Tourism Observatories)は、11の項目を監視することが義務付けられている。
- 観光シーズン
- 雇用
- 経済効果
- エネルギー管理
- 水管理
- 廃棄物(下水)管理
- 固形廃棄物管理
- 気候変動対策
- アクセシビリティ
- 地域住民の満足
- ガバナンス
- UNWTOはCOP26において、観光業界の気候変動対策に関するグラスゴー宣言を行い、今後 10 年間で少なくとも半減を達成し、2050年を迎える前に正味ゼロ排出を約束した。この歴史的な宣言は観光業界の脱炭素化の始まりであり、測定、脱炭素、再生、革新への資金調達のリミットの解除という4つの柱で推進する。
イノベーション デジタルトランスフォーメーション
- 観光部門の新たな課題とトレンドを予測し、対処し、克服するために、UNWTO は現在、イノベーション、教育、デジタルトランスフォーメーション、投資に力を入れている。
観光業界の投資と起業家
- 観光における起業は、政府、学界、企業、零細、中小企業 (MSME)、新興企業、および投資家、ビジネスパートナーやその他の利害関係者とのコラボレーションを生む。投資が無しには、経済成長、雇用創出、持続可能性は考えられないこと。UNWTO は、世界銀行等の国際金融機関と協力している。
- UNWTO、および国際金融公社 (IFC) は、持続可能性のためのグリーン投資を開始した。
観光業界のジェンダー平等
- UNWTO は、女性の生活に対する観光のプラスの影響を高めることに取り組んでおり、SDGs開発目標 5 の達成に貢献する。全体の労働力の内54%と過半数を、能力が低く非公平に働く女性が占める部門であることから、全ての女性と少女を力づけ、彼女たちを取り残さないことを決めた。
社会的包括
- WHO によると、世界人口の 15% (10 億人) が何らかの障害を抱えて生活している。責任ある観光、サステナブルツーリズムにおいて観光施設や商品、サービスは全ての人にとって平等であるべきである。
- UNWTO は、スペインの ONCE 財団とthe European Network for Accessible Tourism (ENAT)とパートナーシップを構築する。
- 2020 年の国際障害者デーに開始されたUNWTO インクルーシブ復興ガイド第1号は、障碍者が観光全体のバリューチェーンをよりよくするための110の提案事例が掲載されている。
若者の育成
- SDGs開発目標8「経済成長と仕事」、SDGs開発目標12「サステナブル消費と商品」で、責任ある観光を推進するために若者が関与することが非常に重要である。
- 若者を観光の未来の中心に据えるグローバル ユース ツーリズムは、2022 年 6 月 29 日から 7 月 2 日にイタリアのソレントで開催され、61カ国以上から120人以上の若い代表を迎えた。2030アジェンダ内の持続可能な観光の未来に対して、子どもと若者にアイデアを共有し、議論し、彼らのビジョンを形にするためのプラットフォームを提供した。
文化と遺跡の保護
- 観光業とオーディオビジュアル産業の親和性は高く、UNWTO と Netflix が提携し、映画やテレビシリーズで観光の原動力や文化へ愛着を持つ役割を担い、サステナブルツーリズムの価値を感じてもらうことができる。
農村発展のための観光
- UNWTO は 2020 年を「観光と農村開発の年」と指定し、テーマを共有した。
- 雇用を創出し、インクルージョンを推進し、保全において観光が果たすことができる役割を強調、自然遺産と文化遺産を促進し、都市への移住を抑制する。
新たな観光トレンドへの適合
- 観光は進化し続けており、新しい旅行トレンドが出現し、成長している。山岳ツーリズム、ガストロノミー・ワインツーリズム、スポーツ観光など、UNWTOでは、新しいトレンドを受け入れ、観光セクターを多様化することをサポートする。
観光業の転換
- 気候変動対策の責任を果たしながらサステナブルで、包括的な開発を推進するためには、観光業はパンデミック前の同じ経路をたどることはできない。しかしながら、旅行者個々人、単独の事業会社や観光地では求められるスピードや規模で変革を実現するのは十分ではない。
- UNWTOは、政府全体でのアプローチとの官民パートナーシップ強化の重要性を強調し、実務的で経済的な支援を行う。