Sustainable Tourism

カナダのリジェネラティブ ツーリズムの未来 について

Source: https://canadiangeographic.ca/articles/qa-destination-canadas-gracen-chungath-on-the-future-of-regenerative-tourism-in-canada/

Summery

  • カナダでの観光の促進を担当する国営企業であるDestination Canadaのデスティネーション開発担当上級副社長であるChungath氏は再生型観光のための全国的な戦略を策定している。
  • 彼女は、再生旅行(リジェネラティブツーリズム)は、カナダの観光の将来において重要な役割を果たすことができる一種の観光である。観光の持続可能な未来を創造するためには、それぞれの場所の個性を認識することが重要であり、そのためには、コミュニティが団結してニーズや機会、課題を特定する必要がある、と言う。

<観光の再生モデルへの移行>

  • 観光地の【開発】ではなく【管理】というのは、観光に対する新しい考え方。
  • これまで、観光は伝統的に“常に観光客に対して提供されるもの”というこれまでの常識を覆して、地域社会のニーズに焦点を当てることに重点を置く。観光地の成否を観光客数で判断するシステムから離れ、より全体的に物事を見るモデルを採用していく。
  • 人々は、観光によって生活や地域が豊かになることを望んでおり、それが成功すれば、観光が実利をもたらすだけでなく、損なわれた生態系と生物多様性のバランスを取り戻すことにも貢献する。

<再生観光成功の6つの定義>

  1. コミュニティに深く根ざした観光ビジネスであること
  2. 人々が認める包括的であるべき姿の観光の仕事をすること
  3. 地域文化の繁栄を助けること
  4. 生態系の豊かさに貢献すること
  5. 炭素サイクルのリバランス
  6. 先住民が運営する先住民観光

<再生型観光モデル移行への課題>

  • 外部がリジェネラティブツーリズムを推進しようと働きかけても上手く行かないし、このようなプロセスであってはならない。しかしながら、外部の人間ができることはコミュニティがリジェネラティブツーリズムに取り組みたいと考えた時に支援することはできる。

<コミュニティが前進する方法について>

  • コミュニティが何を目指しているのか、何に誇りを持っているのか、何を共有したいのかを明確にし、観光にどのような役割を担ってほしいのかを決める。
  • 例えば、訪問者数には満足しているものの、シーズンを数週間延長できれば観光従事者により良い選択肢が提供できるだろうとしたところでは、観光シーズンの分散化を推進している。
  • とにかく施策立ち上げの段階からコミュニティが動き出すことが先決である。

Summery

この記事ではリジェネラティブツーリズムが何であるか、コミュニティがリジェネラティブツーリズムを推進する上での課題や推進方法が非常に分かりやすくまとめられていました。

文中で紹介されていたカナダのHaida Gwaiiの取り組みを調べてみました。

Haida Gwaii の誓約書

ハイダ・グワイには、https://haidagwaiipledge.ca/ というPledge向けのサイトがあります。ここでは、ビジターのオリエンテーション資料と動画が用意されているだけでなく、訪問者誓約書に署名をした上でハイダ・グワイを訪れるように要求、さらにはスチュワードシップファンドへの寄付も推奨しています。

誓約書も寄付も義務ではなく、どちらかというとInstagramなどのSNSで取り組みを拡散することを目的としているようですが、訪問者への働きかけとして興味深い取り組みです。

動画では、先住民の歴史、植民地化によるジェノサイドや強制同化、乱獲、天然痘との戦い、1981年にはWhatmenをが結成され遺跡を保護する取り組みを始め、2010年にクイーンシャーロット諸島からハイダ・グワイという名に戻しハイダ語をはじめとした権利と権限を維持することなどが紹介されています。
最後には、以下のような旅のプランニング(心構え)についてが紹介されています。

旅への心構えとして、以下のようなものがありました。

  • COVID-19プロトコルに従うこと
  • ハイダのゲストであることを知り、尊重すること
  • 親切に話、思慮深く話を聞くといった振る舞い
  • 歩行、運転、駐車、キャンプは許可された場所のみで行う
  • 野生生物から安全な距離を保つ
  • 全てのエリアやイベントがビジターに開放されているわけではないこと
  • 写真を撮るときは人や場所に許可を取ること
  • 公式のオリエンテーションやガイドに従うこと
  • 地球や大気、水への環境フットプリントや影響に注意を払うこと
  • 到着した時よりもきれいにして帰ること
  • ハイダ・グワイの資源を尊重し、今日必要な分だけを入手すること
  • ローカルビジネスをサポートすること

この記事を読んでハイダ・グワイについて調べるまで場所も知らなかったですが、観光を通じて地域を尊重する姿勢や環境や住人への配慮が明確に伝わります。まさにサステナブルツーリズムへの取り組みができていて、非常に好感が持てました。

サステナブルツーリズム、リジェネラティブツーリズムに興味・関心が強い私にとっては感心するばかりで、ハイダについてより深くを知りたくなりますが、ハイダ・グワイを訪問する人の内、一体何%の訪問者がこのオリエンテーション動画を見て誓約書にサインするのだろうと疑問に思います。

このような取り組みが当たり前になる世の中にしたいと考えています。

日本初のゼロ・エネルギーホテル『ITOMACHI HOTEL 0』

愛媛県西条市に2023年5月にOPENした ITOMACHI HOTEL 0 は、環境省が定める「ZEB」認証を取得した日本初のホテルです。

愛媛県西条市に本社のある、半導体機器製造メーカーで再生エネルギーや地方創生、まちづくり事業も展開する株式会社アドバンテック社と、国内外で話題のホテルを手掛ける株式会社GOODTIME社が、隈研吾氏の建築設計により開業しました。

予約時に無理を言って、ホテルの話を伺いたいと申し出たところ、なんとGOODTIME社の明山社長がお見えになり、館内外をご案内くださいました!

ゼロエネルギーの仕組みが一目で理解できるインフォグラフィックス

ホテルのレセプションに到着するとまず目に飛び込んでくるのは、インフォグラフィックス。
(そこまで目立つように置かれているわけではないのですが、私のように、ゼロエネルギーを目的として泊まりに来る人にとっては目に飛び込んでくるはずです)
以下で紹介するのはデモ画面ですが、ホテルが消費しているエネルギー量と生み出しているエネルギー量が掲載されています。
ZEBのために蓄電池とコージェネ(CGS発電機)も用意したものの、開業以来使用したことが無く、太陽光発電で全てまかなえているとのことでした。
また災害時の避難所としても機能するように、電力供給が止まっても72時間自家発電で電気が使えるようになっています。

水道代が無料の西条市

西条市は湧き水が豊富で、上水道が無料の市としても知られています。
水の豊富な西条市ならではで、客室には水の流れる仕組みがみられる透明の蛇口があります。

サステナビリティを徹底した客室アメニティ

客室には当然ペットボトルの水は置いておらず、西条の湧き水が入ったボトルが用意されています。客室からウォーターボトルに水を汲んで出かけることも出来るし、街中で水を汲むことも出来ます。
併設する『いとまちマルシェ』で買い物をするときにも使えるエコバックも用意されています。

滞在に便利な設備『ゲストキッチン』を併設

宿泊スタイルは、朝食付きプランはあるものの、夕食は提供しておらず『いとまちマルシェ』や近隣の飲食店を紹介しています。あるいは、ホテル内にキッチンがあるのでよそで購入したものを持ちこんで調理をすることも出来ます。
訪問者に滞在中に街中に出てもらうことは、ホテルがサステナブルな地域づくりに貢献するのに重要な視点です。

サイクリストの滞在にも最適!

客室内にそのまま自転車を持ち込める仕様となっている上、駐輪場、コインランドリーもあり、サイクリストの滞在にも適しています。サステナブルツーリズムへの相性も抜群です。

『愛媛のたのしみ』を0から体験―愛媛づくしのホテル

  • 客室の色調は、伊予青石を基調にしたブルー
  • 朝食は、地元愛媛の産地から仕入れた旬の野菜や果物を使用
  • 砥部焼の窯元「遠藤窯」によるオリジナル湯呑と急須
  • 松山市「ICOI COFFEE」によるオリジナルドリップパック
  • 西条発の銘菓「たぬきまんじゅう」
  • 愛媛有数のお茶どころ新宮町で、古くから新宮茶のパイオニア「脇製茶」の緑茶
  • 愛媛在住の和紙デザイナーによる和紙アート
  • 西条の水の音をサンプリングした自動温泉構築システム「AISO」による館内音楽

等々、愛媛にどっぷり浸かった滞在ができます。愛媛を中心にホテル建設にかかわった方々が紹介されたパネルもあります。

ITOMACHI HOTEL 0 の生まれた経緯

実はこのホテル。ホテルありきで造られたのかとと思いきや、アドバンテック社が西条市の住民から意見を募って作られたのだそうです。
同社が再生可能エネルギーの拠点づくりのために地方をめぐる中で「人がいない」「何もない」「活気がない」という日本の地方都市の厳しい現実を実感させられました。地元西条も例外ではなく、「街のにぎわいを取り戻したいこと」、「若者や挑戦する人にチャンスを与えられる街にしたいこと」の2つを趣旨にした上で、隈研吾さんとプロジェクトを始動。住民の意見を取り入れたところ、ホテルという拠点が採用されたとのことでした。
どうしても「日本初」という冠にはこだわりたかったという明山社長。
水資源が豊富な西条市というブランドとも相まって、日本初のゼロエネルギーホテルが完成したようです。
オープン後は、市民から「帰省した親族が泊まる場所ができた」と喜ばれているそうです。

ITOMACHI HOTEL 0 を訪れてみて

念願叶って訪れたITOMACHI HOTEL 0では、

  • ゼロエネルギーを視覚にして伝えるインフォグラフィックス
  • 愛媛県産のものをとことん追求・表現した設備、備品、アメニティ、食事
  • ゼロエネルギーホテルを謳いながらも僅か60㎡の客室に最新のエアコンが3台も設置されていること、それが必要ないほどの客室の機密性の高さ
  • ホテル外への回遊を促す滞在の提案
  • 宿泊客に媚びる(主張する)ことなくスタイリッシュにサステナビリティを実現していること
  • 地元住民の声から生まれて、支持されているホテルであること
  • 災害時の避難拠点となっていること

等、私にとっては興奮ものでしたが、私のように”ゼロエネルギー”が滞在動機となり泊まりにくる客は全体の3%程度だそうです。(企業や団体の視察は除く)

明山社長も、「なんか素敵なホテルだな」とか「評判の良いホテルだから」と泊まりに来たら、実はゼロエネルギーホテルだったと気付いてくれる位で良いと思っている とのことでした。

旅行者がサステナビリティに熱心に取り組んでいる宿を選ぶという消費行動はまだまだ先の話になりそうですが、サステナビリティに取り組む宿に泊まった事実というのは、結果的に宿泊客にとって後味の良いものになるのだろうと思います。
宿泊業では、滞在前と滞在中の印象を良くすることは比較的手が付けやすくアイデアも出やすいですが、滞在後の印象を良くすることは難しく、ハードルが高いものです。
その点、サステナビリティ経営に注力している宿は滞在後の評価を上げることができるのが大きなアドバンテージとなるのだろうと考えさせられた滞在となりました。


Sentosa Development Corporation has joined as a Member of the Global Sustainable Tourism Council (GSTC)

Global Sustainable Tourism Council(GSTC)とは、グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会は、世界的な旅行および観光分野における観光産業界の専門家や、政府機関のための持続可能な開発の基準を定め、管理する国際非営利団体です。