Sustainable Tourism

ホテル・宿泊施設のSASBスタンダード

出所:【JPX/VRF】Value Reporting Foundation(価値報告財団)について

上記の通り、統合報告フレームワークとSASB基準は補完的であり、同時に利用することで、報告書の質向上を実現することができるというSASBの「ホテル&宿泊施設のサステナビリティ会計基準」について調べ、下記に要約してみました。

SASB 財団について

⾮営利の独立した基準設定組織として 2011 年に米国サンフランシスコを拠点に設立。
使命として、企業が財務的に重要で意思決定に役立つサステナビリティ情報を投資家に開⽰するのを⽀援する業界固有の基準を確立し維持すること、としている。

サステナビリティ会計は以下を反映。

  • 商品やサービスの⽣産から⽣じる企業の環境および社会的影響のガバナンスと管理
  • ⾧期的な価値の創造に必要な環境資本と社会資本のガバナンスと管理

SASB はまた、サステナビリティを「ESG」(環境、社会、およびガバナンス)と呼んでいますが、企業の取締役会構成など従来のコーポレートガバナンスの問題は、SASBスタンダード設定活動の範囲に含まれないという問題がある。

SASBホテルおよび宿泊施設業界の暫定基準

ホテルおよび宿泊施設業界の暫定基準では、エネルギーおよび⽔資源の使⽤に焦点が当てられている。ホテルや宿泊施設は、エネルギーと⽔を⽐較的⼤量に消費し依存しているため、エネルギー価格の⼤幅上昇や水源の危機は、企業の業績や運営に⼤きく影響する。
エネルギーと⽔の節約と効率化はコストを削減するための重要な⽅法ですが、財政リスクと機会をコントロールするには明確な追跡と監視も求められる。さらに、水不足が深刻な地域に立地するホテルや宿泊施設、化⽯燃料エネルギーへの依存度、自家電力か供給電力かの判断、建物自体やテクノロジー、コストを含むあらゆる要素がエネルギーと水のリスクに対する規模の大きい深刻な問題。

エネルギーについて

ホテル運営にはかなりの量のエネルギー資源を必要とするが、宿泊業界の使用する電力の大半は調達されている。この調達電力は間接的に温室効果ガス (GHG) の排出につながり、気候変動の⼤きな原因となっている。
企業は、運営コストと環境負荷を削減し、環境の持続可能性に関⼼の高いゲストから支持を得るために、エネルギー管理について最善策を講じている。

⽔について

ホテルの稼働には⽐較的⼤量の⽔資源を必要とする。宿泊業界において⽔はで最⼤の運営コストではないが、⽔の供給リスクや⼤幅な価格上昇は、財務レポートに影響を与える。
企業は、運営コストと環境負荷を削減し、環境の持続可能性に関⼼の高いゲストから支持を得るために、水管理について最善策を講じている。

エネルギーのサポート分析

エネルギーコストは、業界のオペレーションコストの3 〜 6%を占め、
光熱費(暖房、換気、空調、給湯、照明、キッチン、洗濯等)の 60%をエネルギーコストが占める。

宿泊企業は、電力の⼤⼝消費者であり、実際のところ、世界のホテル客室数のほぼ半分を提供するヨーロッパのホテルを調査したところ、年間 39 テラワット/時のエネルギーを消費していることがわかった。このようにエネルギー価格上昇が予定され、収益性に悪影響を及ぼす可能性がある。全体的なエネルギー消費を削減するか、エネルギー効率を改善することで、リスクを最⼩限に抑えることが可能。


出所:HOTELS & LODGING Sustainability Accounting Standard より

Table1. 会計指標および測定単位

エネルギー管理

  • 総エネルギー消費量…ギガジュール(GJ)
  • グリッド電力(供給電力)…パーセンテージ(%)
  • 再生可能エネルギーの割合…パーセンテージ(%)

水管理

  • 総取水量…千立方メートル(㎥)
  • 地域の総水消費量の内の割合…パーセンテージ(%)

環境保全への取り組み

  • 保護地域または絶滅危惧種の⽣息地内またはその近くにある宿泊施設の数…件数
  • ⽣態系を維持するための環境管理ポリシーと実践の説明

労働慣行

  • 宿泊施設従業者向けの(1)自発的離職率と(2)非自発的離職率…レート
  • 労働法違反に関連する訴訟⼿続きの結果とそれによって⽣じた金銭的損失の総額…通貨
  • 地域ごとの(1)平均賃金と(2)宿泊施設従業者の最低賃金の割合…通貨、パーセンテージ(%)
  • 労働者のハラスメントを防⽌するためのポリシーとプログラムの説明

気候変動対応

  • 100年以内に浸水するとされるエリアに位置する宿泊施設数…件数

Table2. 活動指標および測定単位

  • 利用可能な客室数…件数
  • 平均稼働率…レート
  • 宿泊施設の総面積…平方メートル(㎡)
  • 宿泊施設の数と、(1)直営、(2)所有およびリース、(3)フランチャイズの割合…件数、パーセンテージ(%)

出所:https://www.sasb.org/standards/download/?lang=en-us

日本初のゼロ・エネルギーホテル『ITOMACHI HOTEL 0』

愛媛県西条市に2023年5月にOPENした ITOMACHI HOTEL 0 は、環境省が定める「ZEB」認証を取得した日本初のホテルです。

愛媛県西条市に本社のある、半導体機器製造メーカーで再生エネルギーや地方創生、まちづくり事業も展開する株式会社アドバンテック社と、国内外で話題のホテルを手掛ける株式会社GOODTIME社が、隈研吾氏の建築設計により開業しました。

予約時に無理を言って、ホテルの話を伺いたいと申し出たところ、なんとGOODTIME社の明山社長がお見えになり、館内外をご案内くださいました!

ゼロエネルギーの仕組みが一目で理解できるインフォグラフィックス

ホテルのレセプションに到着するとまず目に飛び込んでくるのは、インフォグラフィックス。
(そこまで目立つように置かれているわけではないのですが、私のように、ゼロエネルギーを目的として泊まりに来る人にとっては目に飛び込んでくるはずです)
以下で紹介するのはデモ画面ですが、ホテルが消費しているエネルギー量と生み出しているエネルギー量が掲載されています。
ZEBのために蓄電池とコージェネ(CGS発電機)も用意したものの、開業以来使用したことが無く、太陽光発電で全てまかなえているとのことでした。
また災害時の避難所としても機能するように、電力供給が止まっても72時間自家発電で電気が使えるようになっています。

水道代が無料の西条市

西条市は湧き水が豊富で、上水道が無料の市としても知られています。
水の豊富な西条市ならではで、客室には水の流れる仕組みがみられる透明の蛇口があります。

サステナビリティを徹底した客室アメニティ

客室には当然ペットボトルの水は置いておらず、西条の湧き水が入ったボトルが用意されています。客室からウォーターボトルに水を汲んで出かけることも出来るし、街中で水を汲むことも出来ます。
併設する『いとまちマルシェ』で買い物をするときにも使えるエコバックも用意されています。

滞在に便利な設備『ゲストキッチン』を併設

宿泊スタイルは、朝食付きプランはあるものの、夕食は提供しておらず『いとまちマルシェ』や近隣の飲食店を紹介しています。あるいは、ホテル内にキッチンがあるのでよそで購入したものを持ちこんで調理をすることも出来ます。
訪問者に滞在中に街中に出てもらうことは、ホテルがサステナブルな地域づくりに貢献するのに重要な視点です。

サイクリストの滞在にも最適!

客室内にそのまま自転車を持ち込める仕様となっている上、駐輪場、コインランドリーもあり、サイクリストの滞在にも適しています。サステナブルツーリズムへの相性も抜群です。

『愛媛のたのしみ』を0から体験―愛媛づくしのホテル

  • 客室の色調は、伊予青石を基調にしたブルー
  • 朝食は、地元愛媛の産地から仕入れた旬の野菜や果物を使用
  • 砥部焼の窯元「遠藤窯」によるオリジナル湯呑と急須
  • 松山市「ICOI COFFEE」によるオリジナルドリップパック
  • 西条発の銘菓「たぬきまんじゅう」
  • 愛媛有数のお茶どころ新宮町で、古くから新宮茶のパイオニア「脇製茶」の緑茶
  • 愛媛在住の和紙デザイナーによる和紙アート
  • 西条の水の音をサンプリングした自動温泉構築システム「AISO」による館内音楽

等々、愛媛にどっぷり浸かった滞在ができます。愛媛を中心にホテル建設にかかわった方々が紹介されたパネルもあります。

ITOMACHI HOTEL 0 の生まれた経緯

実はこのホテル。ホテルありきで造られたのかとと思いきや、アドバンテック社が西条市の住民から意見を募って作られたのだそうです。
同社が再生可能エネルギーの拠点づくりのために地方をめぐる中で「人がいない」「何もない」「活気がない」という日本の地方都市の厳しい現実を実感させられました。地元西条も例外ではなく、「街のにぎわいを取り戻したいこと」、「若者や挑戦する人にチャンスを与えられる街にしたいこと」の2つを趣旨にした上で、隈研吾さんとプロジェクトを始動。住民の意見を取り入れたところ、ホテルという拠点が採用されたとのことでした。
どうしても「日本初」という冠にはこだわりたかったという明山社長。
水資源が豊富な西条市というブランドとも相まって、日本初のゼロエネルギーホテルが完成したようです。
オープン後は、市民から「帰省した親族が泊まる場所ができた」と喜ばれているそうです。

ITOMACHI HOTEL 0 を訪れてみて

念願叶って訪れたITOMACHI HOTEL 0では、

  • ゼロエネルギーを視覚にして伝えるインフォグラフィックス
  • 愛媛県産のものをとことん追求・表現した設備、備品、アメニティ、食事
  • ゼロエネルギーホテルを謳いながらも僅か60㎡の客室に最新のエアコンが3台も設置されていること、それが必要ないほどの客室の機密性の高さ
  • ホテル外への回遊を促す滞在の提案
  • 宿泊客に媚びる(主張する)ことなくスタイリッシュにサステナビリティを実現していること
  • 地元住民の声から生まれて、支持されているホテルであること
  • 災害時の避難拠点となっていること

等、私にとっては興奮ものでしたが、私のように”ゼロエネルギー”が滞在動機となり泊まりにくる客は全体の3%程度だそうです。(企業や団体の視察は除く)

明山社長も、「なんか素敵なホテルだな」とか「評判の良いホテルだから」と泊まりに来たら、実はゼロエネルギーホテルだったと気付いてくれる位で良いと思っている とのことでした。

旅行者がサステナビリティに熱心に取り組んでいる宿を選ぶという消費行動はまだまだ先の話になりそうですが、サステナビリティに取り組む宿に泊まった事実というのは、結果的に宿泊客にとって後味の良いものになるのだろうと思います。
宿泊業では、滞在前と滞在中の印象を良くすることは比較的手が付けやすくアイデアも出やすいですが、滞在後の印象を良くすることは難しく、ハードルが高いものです。
その点、サステナビリティ経営に注力している宿は滞在後の評価を上げることができるのが大きなアドバンテージとなるのだろうと考えさせられた滞在となりました。


Sentosa Development Corporation has joined as a Member of the Global Sustainable Tourism Council (GSTC)

Global Sustainable Tourism Council(GSTC)とは、グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会は、世界的な旅行および観光分野における観光産業界の専門家や、政府機関のための持続可能な開発の基準を定め、管理する国際非営利団体です。