Sustainable Tourism

持続可能な観光の未来のための5つのポイント

Source: https://skift.com/2022/06/30/5-key-takeaways-for-the-future-of-sustainable-tourism/

Summary

気候変動に対する行動の多くは依然として弱いまま

  • 多くの業界サプライヤーは、気候変動との戦いに真剣に取り組んでいない。多くは話合い等表面的な取り組みだけしかしていない。世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)では、実際に効果的な取り組みをしている企業もあるものの、具体的な行動に着手出来ている企業は十分でない。国連のRace to Zeroキャンペーンに参加したのは、1,100社の航空会社のうち10社と40万社を超えるホテルのうち20社のみであった。

科学に基づいた炭素削減目標が言い訳を無くす

  • ホテルや航空会社は、カーボンオフセットの購入を宣伝しているが、カーボンオフセットはあまり効果がなく、SBTi(科学に基づく目標)としてカウントしてはならない。炭素排出量の削減に取り組まなくてはならない。

持続可能な観光は全ての人にかかわること

  • 持続可能な観光を成功させるには、歴史的に疎外されてきたコミュニティ(先住民族)が、観光地の管理、維持、訪問者への販売方法に関与する必要がある。そのための、マーケティング調査等のサポートを提供していくと良い。

持続可能でない労働慣行のまま放置されている

  • 一部の国では、観光産業は若者を引き付けるのに苦労している。例えば、ケニア大学の観光学の卒業生のほとんどが結局は業界で働こうとしないのは、雇用主は公正な賃金を支払わず、安価な未熟練労働者を雇うことを好むため、若者は観光業を虐待的な産業と見なしているためである。特にアフリカでは労働問題はタブー視されており、議論の俎上に上がらない。

持続可能な取り組みは投資家を惹きつける

  • 投資家は企業の持続可能性のに対する取り組みを注視している。労働慣行、二酸化炭素排出量、多様性などに関して企業が行っていることの詳細を積極的に調査する投資会社が増えている。B-Corps認証を取得しているIntrepidは、最近、家族経営のプライベートエクイティ会社から多額の投資を受けた。

Consideration

国連のRace to Zeroとは、ゼロへのレースとして、世界中の企業や自治体、投資家、大学などの非政府アクターに、2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロを目指すことを約束し、その達成に向けた行動をすぐに起こすことを呼びかける国際キャンペーンのことを言います。

2022年7月13日現在のキャンペーンに参加した航空会社および観光関連事業者は下記の通り。

https://racetozero.unfccc.int/join-the-race/whos-in/

航空会社11社

出所)https://racetozero.unfccc.int/join-the-race/whos-in/

ホテル、レストラン、レジャー、ツーリズムサービス

出所)https://racetozero.unfccc.int/join-the-race/whos-in/

ここから私が知っているホテルグループを拾うと、以下の4つに留まりました。

・Melia Hotels International SA(スペイン)
・IHG Hotels & Resorts(英国)
・InterContinental Hotels Group PLC(英国)
・Marriott International(アメリカ)

確かにこう見ると、観光業界で環境への負担が大きいと考えられる航空会社やホテルの、気候変動に対するアクションを宣言している数が非常に少ないと認めざるを得ません。日本企業が1社も入っていないことも気になります。

また、持続可能な観光は全ての人にかかわることというのには強く同意しており、オーバーツーリズムによる観光公害を蔑ろにした上に成り立つ観光商売というのは一度立ち止まって見直す必要があると考えています。日本で言えばかつての京都が当てはまるのかも知れません。

ケニアにおいて観光業が虐待的な産業として扱われていることには驚きを隠せませんが、持続可能でない労働慣行というのは賃金の安い日本の宿泊産業・宿泊産業にも当てはまると言え、対策が求められると言えるでしょう。

ちなみに、このRace To Zero、日本ではどのような団体が参画しているかというと、

出所)https://racetozero.unfccc.int/join-the-race/whos-in/

東京都、京都府、横浜市、明石市ほか自治体(City)が多く参画しています。


一方、企業として主なものに、

  • 金融機関:三菱UFJ、みずほフィナンシャルグループ、大和アセットマネジメント、三菱UFJアセットマネジメント、三菱UFJフィナンシャルグループ、三菱UFJ国際投信、三菱UFJ信託銀行、日興アセットマネジメント、ニッセイアセットマネジメント、野村アセットマネジメント、損保ホールディングス、損保アセットマネジメント、住友生命保険、三井住友ファイナンシャルグループ、三井住友信託、三井住友トラスト・アセットマネジメント、三井住友トラスト・ホールディングス、東京海上アセットマネジメント
  • 飲料メーカー:アサヒグループホールディング、キリン、サントリー、サントリー食品インターナショナル
  • 保険会社:日本生命、第一生命、東京海上、明治安田生命
  • スポーツ、服飾メーカー:アシックス、ミズノ、YKKコーポレーション
  • 製薬会社:武田製薬、小野薬品工業
  • テクノロジー、ソフトウェア:日立、NEC、NTTデータ、富士通
  • 食品メーカー:味の素、明治ホールディングス
  • 建設会社 他:竹中工務店、不二サッシ
  • 住宅メーカー:積水ハウス、大和ハウス
  • 小売業:丸井グループ、アスクル
  • 教育機関:千葉商科大学、東京大学
  • 光学メーカー:ニコン、リコー
  • 不動産:三菱地所、前田建設
  • 自動車メーカー:日産自動車
  • アパレスメーカー:ファーストリテイリング
  • 商業サービス:大塚商会
  • 情報通信:野村総研
  • 警備保障会社:セコム
  • 林業:住友林業

こう見ると、金融業界の参画率が高いことが良く分かります。金融業界は他業界と比較してそもそも排出している温室効果ガスが少ないこと、また、ESGを推進するにあたってクライアント企業の手本となる為というのが理由であるというのが私の仮説です。

日本初のゼロ・エネルギーホテル『ITOMACHI HOTEL 0』

愛媛県西条市に2023年5月にOPENした ITOMACHI HOTEL 0 は、環境省が定める「ZEB」認証を取得した日本初のホテルです。

愛媛県西条市に本社のある、半導体機器製造メーカーで再生エネルギーや地方創生、まちづくり事業も展開する株式会社アドバンテック社と、国内外で話題のホテルを手掛ける株式会社GOODTIME社が、隈研吾氏の建築設計により開業しました。

予約時に無理を言って、ホテルの話を伺いたいと申し出たところ、なんとGOODTIME社の明山社長がお見えになり、館内外をご案内くださいました!

ゼロエネルギーの仕組みが一目で理解できるインフォグラフィックス

ホテルのレセプションに到着するとまず目に飛び込んでくるのは、インフォグラフィックス。
(そこまで目立つように置かれているわけではないのですが、私のように、ゼロエネルギーを目的として泊まりに来る人にとっては目に飛び込んでくるはずです)
以下で紹介するのはデモ画面ですが、ホテルが消費しているエネルギー量と生み出しているエネルギー量が掲載されています。
ZEBのために蓄電池とコージェネ(CGS発電機)も用意したものの、開業以来使用したことが無く、太陽光発電で全てまかなえているとのことでした。
また災害時の避難所としても機能するように、電力供給が止まっても72時間自家発電で電気が使えるようになっています。

水道代が無料の西条市

西条市は湧き水が豊富で、上水道が無料の市としても知られています。
水の豊富な西条市ならではで、客室には水の流れる仕組みがみられる透明の蛇口があります。

サステナビリティを徹底した客室アメニティ

客室には当然ペットボトルの水は置いておらず、西条の湧き水が入ったボトルが用意されています。客室からウォーターボトルに水を汲んで出かけることも出来るし、街中で水を汲むことも出来ます。
併設する『いとまちマルシェ』で買い物をするときにも使えるエコバックも用意されています。

滞在に便利な設備『ゲストキッチン』を併設

宿泊スタイルは、朝食付きプランはあるものの、夕食は提供しておらず『いとまちマルシェ』や近隣の飲食店を紹介しています。あるいは、ホテル内にキッチンがあるのでよそで購入したものを持ちこんで調理をすることも出来ます。
訪問者に滞在中に街中に出てもらうことは、ホテルがサステナブルな地域づくりに貢献するのに重要な視点です。

サイクリストの滞在にも最適!

客室内にそのまま自転車を持ち込める仕様となっている上、駐輪場、コインランドリーもあり、サイクリストの滞在にも適しています。サステナブルツーリズムへの相性も抜群です。

『愛媛のたのしみ』を0から体験―愛媛づくしのホテル

  • 客室の色調は、伊予青石を基調にしたブルー
  • 朝食は、地元愛媛の産地から仕入れた旬の野菜や果物を使用
  • 砥部焼の窯元「遠藤窯」によるオリジナル湯呑と急須
  • 松山市「ICOI COFFEE」によるオリジナルドリップパック
  • 西条発の銘菓「たぬきまんじゅう」
  • 愛媛有数のお茶どころ新宮町で、古くから新宮茶のパイオニア「脇製茶」の緑茶
  • 愛媛在住の和紙デザイナーによる和紙アート
  • 西条の水の音をサンプリングした自動温泉構築システム「AISO」による館内音楽

等々、愛媛にどっぷり浸かった滞在ができます。愛媛を中心にホテル建設にかかわった方々が紹介されたパネルもあります。

ITOMACHI HOTEL 0 の生まれた経緯

実はこのホテル。ホテルありきで造られたのかとと思いきや、アドバンテック社が西条市の住民から意見を募って作られたのだそうです。
同社が再生可能エネルギーの拠点づくりのために地方をめぐる中で「人がいない」「何もない」「活気がない」という日本の地方都市の厳しい現実を実感させられました。地元西条も例外ではなく、「街のにぎわいを取り戻したいこと」、「若者や挑戦する人にチャンスを与えられる街にしたいこと」の2つを趣旨にした上で、隈研吾さんとプロジェクトを始動。住民の意見を取り入れたところ、ホテルという拠点が採用されたとのことでした。
どうしても「日本初」という冠にはこだわりたかったという明山社長。
水資源が豊富な西条市というブランドとも相まって、日本初のゼロエネルギーホテルが完成したようです。
オープン後は、市民から「帰省した親族が泊まる場所ができた」と喜ばれているそうです。

ITOMACHI HOTEL 0 を訪れてみて

念願叶って訪れたITOMACHI HOTEL 0では、

  • ゼロエネルギーを視覚にして伝えるインフォグラフィックス
  • 愛媛県産のものをとことん追求・表現した設備、備品、アメニティ、食事
  • ゼロエネルギーホテルを謳いながらも僅か60㎡の客室に最新のエアコンが3台も設置されていること、それが必要ないほどの客室の機密性の高さ
  • ホテル外への回遊を促す滞在の提案
  • 宿泊客に媚びる(主張する)ことなくスタイリッシュにサステナビリティを実現していること
  • 地元住民の声から生まれて、支持されているホテルであること
  • 災害時の避難拠点となっていること

等、私にとっては興奮ものでしたが、私のように”ゼロエネルギー”が滞在動機となり泊まりにくる客は全体の3%程度だそうです。(企業や団体の視察は除く)

明山社長も、「なんか素敵なホテルだな」とか「評判の良いホテルだから」と泊まりに来たら、実はゼロエネルギーホテルだったと気付いてくれる位で良いと思っている とのことでした。

旅行者がサステナビリティに熱心に取り組んでいる宿を選ぶという消費行動はまだまだ先の話になりそうですが、サステナビリティに取り組む宿に泊まった事実というのは、結果的に宿泊客にとって後味の良いものになるのだろうと思います。
宿泊業では、滞在前と滞在中の印象を良くすることは比較的手が付けやすくアイデアも出やすいですが、滞在後の印象を良くすることは難しく、ハードルが高いものです。
その点、サステナビリティ経営に注力している宿は滞在後の評価を上げることができるのが大きなアドバンテージとなるのだろうと考えさせられた滞在となりました。


Sentosa Development Corporation has joined as a Member of the Global Sustainable Tourism Council (GSTC)

Global Sustainable Tourism Council(GSTC)とは、グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会は、世界的な旅行および観光分野における観光産業界の専門家や、政府機関のための持続可能な開発の基準を定め、管理する国際非営利団体です。