Sustainable Tourism

APAC(アジア太平洋地域)の消費者のための5つの持続可能な旅行の傾向

Source: https://www.hospitalitynet.org/opinion/4111138.html 2022年6月24日

Summary

  • アジア太平洋(APAC)地域では、消費者は、世界平均と比較して、旅行中の持続可能性にさらに強い関心を示した。日本、インド、中国、オーストラリアのデータを見て、地域内の持続可能な旅行の好みの類似点と相違点を調査

1. APACの消費者は、旅行中に持続可能なオプションを求めている

  • 世界的に、旅行者の90%が、旅行の予約を検討しているときに持続可能な選択肢を見たいと考えている。この傾向はAPAC地域でさらに強く、旅行者の95%が持続可能な旅行オプションに関心を示している。
  • インド…98%、中国…96%、オーストラリア…72%、日本…56%が持続可能な旅行の選択肢を探していると述べている。

2. APACの消費者は、持続可能な旅行に割増料金を支払う

  • APACの消費者は、持続可能性にはコストがかかることを認識しており、旅行が持続可能であることを保証するために、より多くの費用を支払う用意がある。
  • インド…44%以上、中国…40%以上、オーストラリア…28%以上、日本…25%以上

3. APACの消費者は、持続可能な旅行のために利便性と快適さを犠牲にすることをいとわない

APACの消費者の96%はサステナブルトラベラーとなる為に犠牲を払うことをいとわない。また、APACの消費者の53%は、旅行中の利便性と宿泊施設の利便性や快適さが犠牲になることを理解している。

4. APACの消費者にとっての持続可能な旅行の意味は、国によって異なる

回答者の約70%によると、APAC地域全体で、地域経済の支援、地域の文化やコミュニティの支援、環境への影響の軽減が持続可能な旅行の側面と見なされている。

各国の主な「持続可能な旅行の意義」
  • インド…地元の文化やコミュニティを支援すること
  • 中国…環境への影響を減らすことと地域経済を支援すること
  • オーストラリア…環境への影響を減らすこと
  • 日本…地域経済を支援すること

5. APACは、さまざまな情報源から持続可能な旅行情報を探している

APACの消費者の3人に2人以上が、環境への影響が少ない旅行オプションと、地域の文化やコミュニティをサポートするオプションについて詳しく知りたいと考えている。半数以上が、地元の目的地、観光、または訪問者のリソースグループからこの情報を見たいと思っている。回答者の半数弱が、宿泊施設や宿泊施設の会社や交通機関からの持続可能性に関する詳細情報を求めている。

Consideration

この記事はエクスペディアグループの2022年4月「Sustainable Travel Study」レポートの一部要約のようです。

調査対象は、世界11ヶ国(内訳:アメリカ、カナダ、メキシコ、ブラジル、イギリス、フランス、ドイツ、インド、中国、オーストラリア、日本)の11,000人。

この調査で、アジアパシフィック地域と括り、APACは他地域より関心が高いとするのには無理があると感じます。

私が『日本も持続可能な旅行に関心が高い』と言われていることに対して違和感を感じたように、上記、1.2.でわかるように、インド・中国とはパーセンテージに大きな開きがあります。まだまだ日本には持続可能な旅行という概念が定着していないと、日本に住んでいて実感する中で妙にひっかかる記事でした。

レポートの中で『持続可能な旅行のための意味のある行動』として挙げられているのは以下の通りです。

・チェーン店よりも地元民が経営する小売店やレストランで買い物をする

・地域の文化的・歴史的な場所を訪れる

・より環境に優しい交通機関を選ぶ

・地域コミュニティや少数民族から購入する

・小規模で知名度の低い観光地に旅行に行く

・意識的に環境負荷を減らした宿泊施設へ泊まる

・サステナブルな取り組みに対して費用を支払う(カーボンオフセット等)

・サステナブルな取り組みを宣言する企業を選ぶ

・観光地の地域コミュニティを手伝うボランティアをする

GSTC(Global Sustainable Tourism Council)の認定基準を参照すれば、上記以外にも

  1. 地域住民を雇用しているか、地域支援をしているか
  2. 水のリスク評価・適切な管理(water footprint)がされているか
  3. 来訪者に持続可能なふるまいを促すような情報提供がされているか
  4. 責任ある購入(持続可能性に配慮した仕入れ先からの調達)ができているか
  5. 省エネ設備を率先して導入しているか
  6. GHG排出量、廃棄物量をモニタリングしているか
  7. 有害物質は使用していないか
  8. 生物多様性の保全はしているか
  9. あらゆるハラスメントはないか
  10. ディーセントワーク(働き甲斐のある人間らしい仕事)を提供しているか

等という視点があります。

他にも、各観光事業者だけではなく、観光地自体も持続可能な観光地としての対応を取っているか、という視点もあります。

持続可能性に対する取り組みは、一般消費者がわかりやすい(目に見える、耳にする)箇所ばかりピックアップされますが、上記1.~10.のような一般消費者の目に見えない、耳に届かない部分ほど貢献度合いが大きく重要であることも少なくありません。

本当に持続可能な観光を実現させたい観光事業者は、上記1.~10.の情報を一般消費者にも伝わる方法で公表し、消費者はこれまで以上にこれらの状況に敏感になり、旅行消費をするべきです。

日本初のゼロ・エネルギーホテル『ITOMACHI HOTEL 0』

愛媛県西条市に2023年5月にOPENした ITOMACHI HOTEL 0 は、環境省が定める「ZEB」認証を取得した日本初のホテルです。

愛媛県西条市に本社のある、半導体機器製造メーカーで再生エネルギーや地方創生、まちづくり事業も展開する株式会社アドバンテック社と、国内外で話題のホテルを手掛ける株式会社GOODTIME社が、隈研吾氏の建築設計により開業しました。

予約時に無理を言って、ホテルの話を伺いたいと申し出たところ、なんとGOODTIME社の明山社長がお見えになり、館内外をご案内くださいました!

ゼロエネルギーの仕組みが一目で理解できるインフォグラフィックス

ホテルのレセプションに到着するとまず目に飛び込んでくるのは、インフォグラフィックス。
(そこまで目立つように置かれているわけではないのですが、私のように、ゼロエネルギーを目的として泊まりに来る人にとっては目に飛び込んでくるはずです)
以下で紹介するのはデモ画面ですが、ホテルが消費しているエネルギー量と生み出しているエネルギー量が掲載されています。
ZEBのために蓄電池とコージェネ(CGS発電機)も用意したものの、開業以来使用したことが無く、太陽光発電で全てまかなえているとのことでした。
また災害時の避難所としても機能するように、電力供給が止まっても72時間自家発電で電気が使えるようになっています。

水道代が無料の西条市

西条市は湧き水が豊富で、上水道が無料の市としても知られています。
水の豊富な西条市ならではで、客室には水の流れる仕組みがみられる透明の蛇口があります。

サステナビリティを徹底した客室アメニティ

客室には当然ペットボトルの水は置いておらず、西条の湧き水が入ったボトルが用意されています。客室からウォーターボトルに水を汲んで出かけることも出来るし、街中で水を汲むことも出来ます。
併設する『いとまちマルシェ』で買い物をするときにも使えるエコバックも用意されています。

滞在に便利な設備『ゲストキッチン』を併設

宿泊スタイルは、朝食付きプランはあるものの、夕食は提供しておらず『いとまちマルシェ』や近隣の飲食店を紹介しています。あるいは、ホテル内にキッチンがあるのでよそで購入したものを持ちこんで調理をすることも出来ます。
訪問者に滞在中に街中に出てもらうことは、ホテルがサステナブルな地域づくりに貢献するのに重要な視点です。

サイクリストの滞在にも最適!

客室内にそのまま自転車を持ち込める仕様となっている上、駐輪場、コインランドリーもあり、サイクリストの滞在にも適しています。サステナブルツーリズムへの相性も抜群です。

『愛媛のたのしみ』を0から体験―愛媛づくしのホテル

  • 客室の色調は、伊予青石を基調にしたブルー
  • 朝食は、地元愛媛の産地から仕入れた旬の野菜や果物を使用
  • 砥部焼の窯元「遠藤窯」によるオリジナル湯呑と急須
  • 松山市「ICOI COFFEE」によるオリジナルドリップパック
  • 西条発の銘菓「たぬきまんじゅう」
  • 愛媛有数のお茶どころ新宮町で、古くから新宮茶のパイオニア「脇製茶」の緑茶
  • 愛媛在住の和紙デザイナーによる和紙アート
  • 西条の水の音をサンプリングした自動温泉構築システム「AISO」による館内音楽

等々、愛媛にどっぷり浸かった滞在ができます。愛媛を中心にホテル建設にかかわった方々が紹介されたパネルもあります。

ITOMACHI HOTEL 0 の生まれた経緯

実はこのホテル。ホテルありきで造られたのかとと思いきや、アドバンテック社が西条市の住民から意見を募って作られたのだそうです。
同社が再生可能エネルギーの拠点づくりのために地方をめぐる中で「人がいない」「何もない」「活気がない」という日本の地方都市の厳しい現実を実感させられました。地元西条も例外ではなく、「街のにぎわいを取り戻したいこと」、「若者や挑戦する人にチャンスを与えられる街にしたいこと」の2つを趣旨にした上で、隈研吾さんとプロジェクトを始動。住民の意見を取り入れたところ、ホテルという拠点が採用されたとのことでした。
どうしても「日本初」という冠にはこだわりたかったという明山社長。
水資源が豊富な西条市というブランドとも相まって、日本初のゼロエネルギーホテルが完成したようです。
オープン後は、市民から「帰省した親族が泊まる場所ができた」と喜ばれているそうです。

ITOMACHI HOTEL 0 を訪れてみて

念願叶って訪れたITOMACHI HOTEL 0では、

  • ゼロエネルギーを視覚にして伝えるインフォグラフィックス
  • 愛媛県産のものをとことん追求・表現した設備、備品、アメニティ、食事
  • ゼロエネルギーホテルを謳いながらも僅か60㎡の客室に最新のエアコンが3台も設置されていること、それが必要ないほどの客室の機密性の高さ
  • ホテル外への回遊を促す滞在の提案
  • 宿泊客に媚びる(主張する)ことなくスタイリッシュにサステナビリティを実現していること
  • 地元住民の声から生まれて、支持されているホテルであること
  • 災害時の避難拠点となっていること

等、私にとっては興奮ものでしたが、私のように”ゼロエネルギー”が滞在動機となり泊まりにくる客は全体の3%程度だそうです。(企業や団体の視察は除く)

明山社長も、「なんか素敵なホテルだな」とか「評判の良いホテルだから」と泊まりに来たら、実はゼロエネルギーホテルだったと気付いてくれる位で良いと思っている とのことでした。

旅行者がサステナビリティに熱心に取り組んでいる宿を選ぶという消費行動はまだまだ先の話になりそうですが、サステナビリティに取り組む宿に泊まった事実というのは、結果的に宿泊客にとって後味の良いものになるのだろうと思います。
宿泊業では、滞在前と滞在中の印象を良くすることは比較的手が付けやすくアイデアも出やすいですが、滞在後の印象を良くすることは難しく、ハードルが高いものです。
その点、サステナビリティ経営に注力している宿は滞在後の評価を上げることができるのが大きなアドバンテージとなるのだろうと考えさせられた滞在となりました。


Sentosa Development Corporation has joined as a Member of the Global Sustainable Tourism Council (GSTC)

Global Sustainable Tourism Council(GSTC)とは、グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会は、世界的な旅行および観光分野における観光産業界の専門家や、政府機関のための持続可能な開発の基準を定め、管理する国際非営利団体です。