Sustainable Tourism

持続可能な観光:単なる流行か未来永劫続くものか?

Source: https://www.travelmole.com/travel_experts/sustainable-tourism-fad-or-the-future-uk/?region=na

Summary

  • サステナビリティは、2022年の流行語の先端を走っているが、いまやオーガニックや分解できる、地球にやさしいといったキーワードがあふれかえっているため、サステナビリティという言葉は形骸化している。
  • とは言え、多くの旅行会社はかつてないほど炭素排出量の算出に躍起になり、顧客に観光地で支援している地域活動について熱心に伝えている。
  • 元米副大統領のアル・ゴア氏が「不都合な真実」を2006年に発表してから数年間はヨーロッパの大手ツアーオペレーターや大手航空会社の多くは、サスティナビリティチームを立ち上げたが、直後の世界的不況により、ほんの一握りの旅行会社を除いてはサステナビリティチームの存在意義は失われ、消滅した。
  • それと同時に、コンプレインを個別に対応していた時代からSNSで瞬時に拡散される時代になり、情報拡散速度が劇的に変化した。このことが、グレタトゥーンバーグ氏やディビッド・アッテンボロー氏のような声が「フライトシェイム」のような動きを台頭。観光業界が気候変動の緊急性を訴え、格安航空会社やOTAまでもがサステナビリティにこだわるようになった。
  • しかしながら、今回ばかりは、パンデミックの経済的大打撃にもかかわらず、サステナビリティチームはほとんど影響を受けることなく、旅行会社の核となっている。
  • ブッキングドットコムの全世界の31,000人を対象にした最新のサステナブルトラベルレポートによると、71%の人がよりサステナブルな観光を望んでおり、50%の人が最近の気候変動のニュースがよりサステナブルな観光を選ぶ要因となっているとコメントした。また、66%が地域の文化を経験し、79%が環境にやさしい交通手段を選び、81%がサステナブルな宿泊施設に滞在したいと答えている。
  • 企業はより透明性を求められ、人々はますます持続可能な観光を望んでいることを考えると、もはや単なる流行ではなくなっている。

Consideration

2000年代初頭の世界的不況(リーマンショック)と言えば、日本と欧米とで全く異なる動きがありました。

日本では、不況の煽りを受けて真っ先にコスト削減の標的となったのはCSR予算でした。2003年に政府と経団連の呼びかけで始まったCSRですが、リーマン・ショックにより社会貢献活動や環境対策の為の予算や人員は削減され「暗黒の時代」に突入していきました。

一方、欧米のグローバル企業では、CSRのコスト削減はされたものの、役割は大幅に拡大したと言われています。

例えば、ユニリーバは

・社会・環境に関する項目に対し、定量目標を設定した上で公表する

・調達する茶葉やパーム油の環境認証を取得する

・主力製品で使う卵をケージフリー卵にする

・二酸化炭素排出量を2012年までに2004年比25%削減する

ウォルマートは

・サステナビリティ360 という行動計画の宣言

-事業電力を再生可能エネルギー100%に切り替える

-埋立廃棄物ゼロ

-自然資源と環境に配慮した製品の販売

・上記3つの柱に対して毎年5億ドル投資する

その他にも、ネスレが株主価値と社会価値を伸ばすために不可欠な項目として栄養・水資源・農村の発展を宣言したり、スターバックスもコーヒー豆の調達やプラスチック消費削減で初めて長期目標を設定しました。

その一方で、事業と無関係な社会貢献活動は予算が減らされ、CSRという言葉そのものが使われなくなり、「サステナビリティ」という言葉に置き換わっていきました。

記事では、世界不況の際にヨーロッパの旅行会社のサステナビリティチームはほぼ崩壊したとありましたが、多くの旅行会社にはサステナビリティチームを維持するまでの資本力は無かったと推測します。

元々予約代行を主としたマージンビジネスのため薄利多売である上、インターネットの普及に伴う直販化が進行していました。不況による旅行消費も落ち込んでいる中でサステナビリティまで資金が回るわけがありませんし、旅行者の関心も低かったでしょう。

しかしながら、今回は気候変動を身近で感じるようになり、旅行者の関心や要求度合いが非常に高いため、パンデミックがあろうがサステナビリティを重視した経営をしていかなければなりません。

例えば、炭素排出量の少ないツアーを企画したり、カーボンオフセットのできる旅行体験の提供が求められるでしょう。

むしろここにこそ旅行会社の価値が見出せると考えています。個人旅行・個人手配(直販)が主流になってきてからというもの、何の特徴もない旅行会社の存在価値が失われつつありますが、サステナビリティを軸にした旅行商品を企画ができる旅行会社の価値は益々高まっていくでしょう。

日本ではまだ個人レベルで温室効果ガスの排出量が少ない交通手段や観光地、宿泊施設を選択するのは困難ですので、旅行会社がその役割を担うべきだと考えています。

(参考) 「ESG思考」 夫馬賢治 著

日本初のゼロ・エネルギーホテル『ITOMACHI HOTEL 0』

愛媛県西条市に2023年5月にOPENした ITOMACHI HOTEL 0 は、環境省が定める「ZEB」認証を取得した日本初のホテルです。

愛媛県西条市に本社のある、半導体機器製造メーカーで再生エネルギーや地方創生、まちづくり事業も展開する株式会社アドバンテック社と、国内外で話題のホテルを手掛ける株式会社GOODTIME社が、隈研吾氏の建築設計により開業しました。

予約時に無理を言って、ホテルの話を伺いたいと申し出たところ、なんとGOODTIME社の明山社長がお見えになり、館内外をご案内くださいました!

ゼロエネルギーの仕組みが一目で理解できるインフォグラフィックス

ホテルのレセプションに到着するとまず目に飛び込んでくるのは、インフォグラフィックス。
(そこまで目立つように置かれているわけではないのですが、私のように、ゼロエネルギーを目的として泊まりに来る人にとっては目に飛び込んでくるはずです)
以下で紹介するのはデモ画面ですが、ホテルが消費しているエネルギー量と生み出しているエネルギー量が掲載されています。
ZEBのために蓄電池とコージェネ(CGS発電機)も用意したものの、開業以来使用したことが無く、太陽光発電で全てまかなえているとのことでした。
また災害時の避難所としても機能するように、電力供給が止まっても72時間自家発電で電気が使えるようになっています。

水道代が無料の西条市

西条市は湧き水が豊富で、上水道が無料の市としても知られています。
水の豊富な西条市ならではで、客室には水の流れる仕組みがみられる透明の蛇口があります。

サステナビリティを徹底した客室アメニティ

客室には当然ペットボトルの水は置いておらず、西条の湧き水が入ったボトルが用意されています。客室からウォーターボトルに水を汲んで出かけることも出来るし、街中で水を汲むことも出来ます。
併設する『いとまちマルシェ』で買い物をするときにも使えるエコバックも用意されています。

滞在に便利な設備『ゲストキッチン』を併設

宿泊スタイルは、朝食付きプランはあるものの、夕食は提供しておらず『いとまちマルシェ』や近隣の飲食店を紹介しています。あるいは、ホテル内にキッチンがあるのでよそで購入したものを持ちこんで調理をすることも出来ます。
訪問者に滞在中に街中に出てもらうことは、ホテルがサステナブルな地域づくりに貢献するのに重要な視点です。

サイクリストの滞在にも最適!

客室内にそのまま自転車を持ち込める仕様となっている上、駐輪場、コインランドリーもあり、サイクリストの滞在にも適しています。サステナブルツーリズムへの相性も抜群です。

『愛媛のたのしみ』を0から体験―愛媛づくしのホテル

  • 客室の色調は、伊予青石を基調にしたブルー
  • 朝食は、地元愛媛の産地から仕入れた旬の野菜や果物を使用
  • 砥部焼の窯元「遠藤窯」によるオリジナル湯呑と急須
  • 松山市「ICOI COFFEE」によるオリジナルドリップパック
  • 西条発の銘菓「たぬきまんじゅう」
  • 愛媛有数のお茶どころ新宮町で、古くから新宮茶のパイオニア「脇製茶」の緑茶
  • 愛媛在住の和紙デザイナーによる和紙アート
  • 西条の水の音をサンプリングした自動温泉構築システム「AISO」による館内音楽

等々、愛媛にどっぷり浸かった滞在ができます。愛媛を中心にホテル建設にかかわった方々が紹介されたパネルもあります。

ITOMACHI HOTEL 0 の生まれた経緯

実はこのホテル。ホテルありきで造られたのかとと思いきや、アドバンテック社が西条市の住民から意見を募って作られたのだそうです。
同社が再生可能エネルギーの拠点づくりのために地方をめぐる中で「人がいない」「何もない」「活気がない」という日本の地方都市の厳しい現実を実感させられました。地元西条も例外ではなく、「街のにぎわいを取り戻したいこと」、「若者や挑戦する人にチャンスを与えられる街にしたいこと」の2つを趣旨にした上で、隈研吾さんとプロジェクトを始動。住民の意見を取り入れたところ、ホテルという拠点が採用されたとのことでした。
どうしても「日本初」という冠にはこだわりたかったという明山社長。
水資源が豊富な西条市というブランドとも相まって、日本初のゼロエネルギーホテルが完成したようです。
オープン後は、市民から「帰省した親族が泊まる場所ができた」と喜ばれているそうです。

ITOMACHI HOTEL 0 を訪れてみて

念願叶って訪れたITOMACHI HOTEL 0では、

  • ゼロエネルギーを視覚にして伝えるインフォグラフィックス
  • 愛媛県産のものをとことん追求・表現した設備、備品、アメニティ、食事
  • ゼロエネルギーホテルを謳いながらも僅か60㎡の客室に最新のエアコンが3台も設置されていること、それが必要ないほどの客室の機密性の高さ
  • ホテル外への回遊を促す滞在の提案
  • 宿泊客に媚びる(主張する)ことなくスタイリッシュにサステナビリティを実現していること
  • 地元住民の声から生まれて、支持されているホテルであること
  • 災害時の避難拠点となっていること

等、私にとっては興奮ものでしたが、私のように”ゼロエネルギー”が滞在動機となり泊まりにくる客は全体の3%程度だそうです。(企業や団体の視察は除く)

明山社長も、「なんか素敵なホテルだな」とか「評判の良いホテルだから」と泊まりに来たら、実はゼロエネルギーホテルだったと気付いてくれる位で良いと思っている とのことでした。

旅行者がサステナビリティに熱心に取り組んでいる宿を選ぶという消費行動はまだまだ先の話になりそうですが、サステナビリティに取り組む宿に泊まった事実というのは、結果的に宿泊客にとって後味の良いものになるのだろうと思います。
宿泊業では、滞在前と滞在中の印象を良くすることは比較的手が付けやすくアイデアも出やすいですが、滞在後の印象を良くすることは難しく、ハードルが高いものです。
その点、サステナビリティ経営に注力している宿は滞在後の評価を上げることができるのが大きなアドバンテージとなるのだろうと考えさせられた滞在となりました。


Sentosa Development Corporation has joined as a Member of the Global Sustainable Tourism Council (GSTC)

Global Sustainable Tourism Council(GSTC)とは、グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会は、世界的な旅行および観光分野における観光産業界の専門家や、政府機関のための持続可能な開発の基準を定め、管理する国際非営利団体です。