Sustainable Tourism

観光における気候変動対策に関するグラスゴー宣言が、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)で発表

2021年11月4日

Source:
https://unwto-ap.org/topics/glasgow/

https://www.oneplanetnetwork.org/programmes/sustainable-tourism/glasgow-declaration

Summary

グラスゴー宣言は、観光セクターが観光分野における気候変動対策を加速し、今後10年間で観光部門での二酸化炭素(CO2)排出量を半減させ、2050年までに「ネット・ゼロエミッション」を達成するための強力な行動をコミットすることを目的にしたもの。

締約団体は署名してから12か月以内に気候変動対策に関する計画を策定/更新し、同計画に沿って順次、実施への取組みが必要。11月4日公表分では世界で300団体以上が署名。以降もオンラインにて署名が可能。

日本からは3団体が署名:北海道ニセコ町、一般社団法人JARTA、春陽荘

『グラスゴー宣言』の概要

l  2030までに二酸化炭素排出量を半減させ、2050年までにネットゼロエミッションを達成するために、最新の科学技術と手を組み、行動し、2100年までに産業革命以前と比較して1.5℃以内の気温上昇をに留める

最新のUNWTO/ITFの調査より

l  2016年における観光業界から排出されるCO2の量は2005年比で少なくとも60%増え、中でも移動にかかわる部門のCO2排出量は、CO2排出量全体の5%を占める

l  脱炭素に対する早急な対応を取らない限り、2030年には2016年比で+25%以上のCO2が排出される見通し

気候変動の問題と観光業界

l  気候変動や公害、生物多様性の消失は多くの観光アクティビティを継続できない状態を招く。海岸線の上昇、洪水の多発、異常気象はあらゆる地域の生活圏を危険にさらし、インフラやサプライチェーン、食料確保に影響を与える。

l  気候変動は女性や先住民、障害者、小さな島嶼国に暮らす等、立場が弱い人々にとって深刻な影響があり、観光業界は彼らや次世代を担う若者について真剣に考える必要がある

2050年までのネットゼロを実現するために

l  観光業界の回復と持続可能な生産・消費活動の基に、経済的な成功だけを追い求めるだけでなく、再生可能なエコシステム、生物多様性と生活スタイルを考えないといけない

気候変動対策を遂行するための5つの指標

l  測定

― UNFCCCのガイドラインに則った旅行・観光にかかわるCO2排出の見える化

l  脱炭素

―交通、インフラ、宿泊施設、体験、食事、廃棄物の適切な処理を含めた観光の脱炭素化の目標値の設定。オフセットよりも真の削減にこだわる

l  再生可能

―生態系の回復や保全が、低炭素社会を実現し、生物多様性、食料の安全保障、水の供給を担保する。観光業の多くは気候変動の影響を受けやすい地域を拠点としているため、復興体制の構築や災害対応をサポートする。観光客や地域住民が、自然と良いバランスを取ることが求められる

l  協調

―すべてのステークホルダーとエビデンスとリスク、解決策を示し、協力することでより効果的に取り組む。国、地方自治体、大企業および中小企業、社会的弱者や地域コミュニティ、観光客を含むすべてのレベルでガバナンスを強めていく。

l  財務・会計

―気候変動に対する目的を果たすための、教育、研究、分析等の効果的なツールを確保

Consideration

現在、旅行・観光産業は、世界中で10人に一人が従事し、年間7兆ドルを生み出す産業となっており、二酸化炭素排出量に関しても大きな影響を与える存在となっています。

シドニー大学研究者チームの観光による温室効果ガス調査では160余りの送出と受入国間の旅行に運輸、ホテルだけでなく買い物、飲食など目的地でのサービスを計算に入れて炭素排出量を算出。2013年では観光による炭素排出量はCO2換算で45億トン。これは世界全温室効果ガス排出量の8%に相当すると言われています。

気候変動等による影響を受けた主要観光地として以下が挙げられます。
参照)https://stacker.com/stories/3184/famous-tourist-destinations-being-impacted-climate-change

・フィジー

 気候変動によって海面上昇が始まっています。海水が土地に浸透することによって農家が壊滅的な被害を受け、農地を追われています。

・アマゾン

南アメリカの200万平方マイルのアマゾンの熱帯雨林には全世界の10%の生き物がいると言われています。それは9か国を回らないとみられない程の多様な生物が存在しています。しかしながら、世界自然保護基金(WWF)は気温上昇により、今後50年のうちに半分の野生生物が姿を消すと警告しています。

・ストーンヘンジ

2016年、ユネスコは海面上昇、暴風雨の激化により先史時代の記念碑が危機にさらされていると警鐘を鳴らしています。

・アラスカ

気候変動に対して世界で最も脆弱な目的地の1つとなっています。海岸線の上昇、氷河の融解、道路の崩壊、ツンドラ地帯での樹木の成長が見受けられています。野生動物の一部が絶滅の危機に瀕しています。アラスカは他のどの州よりも温暖化の影響を受けています。

・グレートバリアリーフ(オーストラリア)

2019年4月にネイチャーに掲載されたレポートによると、気候変動の影響で89%のサンゴが減少しました。年間200万人以上の観光客を魅了し、40~50憶ドルの観光収入を生み出しています。熱ストレス等、気候変動により急速に衰退しています。

このように観光産業存続の意味でも早急なサステナブルツーリズムへの取り組みが求められています。

日本初のゼロ・エネルギーホテル『ITOMACHI HOTEL 0』

愛媛県西条市に2023年5月にOPENした ITOMACHI HOTEL 0 は、環境省が定める「ZEB」認証を取得した日本初のホテルです。

愛媛県西条市に本社のある、半導体機器製造メーカーで再生エネルギーや地方創生、まちづくり事業も展開する株式会社アドバンテック社と、国内外で話題のホテルを手掛ける株式会社GOODTIME社が、隈研吾氏の建築設計により開業しました。

予約時に無理を言って、ホテルの話を伺いたいと申し出たところ、なんとGOODTIME社の明山社長がお見えになり、館内外をご案内くださいました!

ゼロエネルギーの仕組みが一目で理解できるインフォグラフィックス

ホテルのレセプションに到着するとまず目に飛び込んでくるのは、インフォグラフィックス。
(そこまで目立つように置かれているわけではないのですが、私のように、ゼロエネルギーを目的として泊まりに来る人にとっては目に飛び込んでくるはずです)
以下で紹介するのはデモ画面ですが、ホテルが消費しているエネルギー量と生み出しているエネルギー量が掲載されています。
ZEBのために蓄電池とコージェネ(CGS発電機)も用意したものの、開業以来使用したことが無く、太陽光発電で全てまかなえているとのことでした。
また災害時の避難所としても機能するように、電力供給が止まっても72時間自家発電で電気が使えるようになっています。

水道代が無料の西条市

西条市は湧き水が豊富で、上水道が無料の市としても知られています。
水の豊富な西条市ならではで、客室には水の流れる仕組みがみられる透明の蛇口があります。

サステナビリティを徹底した客室アメニティ

客室には当然ペットボトルの水は置いておらず、西条の湧き水が入ったボトルが用意されています。客室からウォーターボトルに水を汲んで出かけることも出来るし、街中で水を汲むことも出来ます。
併設する『いとまちマルシェ』で買い物をするときにも使えるエコバックも用意されています。

滞在に便利な設備『ゲストキッチン』を併設

宿泊スタイルは、朝食付きプランはあるものの、夕食は提供しておらず『いとまちマルシェ』や近隣の飲食店を紹介しています。あるいは、ホテル内にキッチンがあるのでよそで購入したものを持ちこんで調理をすることも出来ます。
訪問者に滞在中に街中に出てもらうことは、ホテルがサステナブルな地域づくりに貢献するのに重要な視点です。

サイクリストの滞在にも最適!

客室内にそのまま自転車を持ち込める仕様となっている上、駐輪場、コインランドリーもあり、サイクリストの滞在にも適しています。サステナブルツーリズムへの相性も抜群です。

『愛媛のたのしみ』を0から体験―愛媛づくしのホテル

  • 客室の色調は、伊予青石を基調にしたブルー
  • 朝食は、地元愛媛の産地から仕入れた旬の野菜や果物を使用
  • 砥部焼の窯元「遠藤窯」によるオリジナル湯呑と急須
  • 松山市「ICOI COFFEE」によるオリジナルドリップパック
  • 西条発の銘菓「たぬきまんじゅう」
  • 愛媛有数のお茶どころ新宮町で、古くから新宮茶のパイオニア「脇製茶」の緑茶
  • 愛媛在住の和紙デザイナーによる和紙アート
  • 西条の水の音をサンプリングした自動温泉構築システム「AISO」による館内音楽

等々、愛媛にどっぷり浸かった滞在ができます。愛媛を中心にホテル建設にかかわった方々が紹介されたパネルもあります。

ITOMACHI HOTEL 0 の生まれた経緯

実はこのホテル。ホテルありきで造られたのかとと思いきや、アドバンテック社が西条市の住民から意見を募って作られたのだそうです。
同社が再生可能エネルギーの拠点づくりのために地方をめぐる中で「人がいない」「何もない」「活気がない」という日本の地方都市の厳しい現実を実感させられました。地元西条も例外ではなく、「街のにぎわいを取り戻したいこと」、「若者や挑戦する人にチャンスを与えられる街にしたいこと」の2つを趣旨にした上で、隈研吾さんとプロジェクトを始動。住民の意見を取り入れたところ、ホテルという拠点が採用されたとのことでした。
どうしても「日本初」という冠にはこだわりたかったという明山社長。
水資源が豊富な西条市というブランドとも相まって、日本初のゼロエネルギーホテルが完成したようです。
オープン後は、市民から「帰省した親族が泊まる場所ができた」と喜ばれているそうです。

ITOMACHI HOTEL 0 を訪れてみて

念願叶って訪れたITOMACHI HOTEL 0では、

  • ゼロエネルギーを視覚にして伝えるインフォグラフィックス
  • 愛媛県産のものをとことん追求・表現した設備、備品、アメニティ、食事
  • ゼロエネルギーホテルを謳いながらも僅か60㎡の客室に最新のエアコンが3台も設置されていること、それが必要ないほどの客室の機密性の高さ
  • ホテル外への回遊を促す滞在の提案
  • 宿泊客に媚びる(主張する)ことなくスタイリッシュにサステナビリティを実現していること
  • 地元住民の声から生まれて、支持されているホテルであること
  • 災害時の避難拠点となっていること

等、私にとっては興奮ものでしたが、私のように”ゼロエネルギー”が滞在動機となり泊まりにくる客は全体の3%程度だそうです。(企業や団体の視察は除く)

明山社長も、「なんか素敵なホテルだな」とか「評判の良いホテルだから」と泊まりに来たら、実はゼロエネルギーホテルだったと気付いてくれる位で良いと思っている とのことでした。

旅行者がサステナビリティに熱心に取り組んでいる宿を選ぶという消費行動はまだまだ先の話になりそうですが、サステナビリティに取り組む宿に泊まった事実というのは、結果的に宿泊客にとって後味の良いものになるのだろうと思います。
宿泊業では、滞在前と滞在中の印象を良くすることは比較的手が付けやすくアイデアも出やすいですが、滞在後の印象を良くすることは難しく、ハードルが高いものです。
その点、サステナビリティ経営に注力している宿は滞在後の評価を上げることができるのが大きなアドバンテージとなるのだろうと考えさせられた滞在となりました。


Sentosa Development Corporation has joined as a Member of the Global Sustainable Tourism Council (GSTC)

Global Sustainable Tourism Council(GSTC)とは、グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会は、世界的な旅行および観光分野における観光産業界の専門家や、政府機関のための持続可能な開発の基準を定め、管理する国際非営利団体です。