Sustainable Tourism

ホテルがESG問題を把握する方法

2022年2月7日


Source: https://www.hoteliermiddleeast.com/comment/legal-advice-how-hotels-can-keep-on-top-of-esg-issues

Summary

l  ホテル業界の動向

・COVID-19のパンデミックをきっかけに環境への意識が高まり、不動産ホテル経営者や投資家は、持続可能性の問題にどのように取り組んでいるかについて、利害関係者からの説明が求められている。
・多くの不動産投資家やオペレーターは、2050年までに不動産ポートフォリオをネットゼロの温室効果ガス排出量に移行し、所有する不動産がもたらす環境への影響を減らすことを公約しているが、不動産およびホスピタリティ部門においてネットゼロが何を意味するかについての明確な定義はない。
・ホテルの設計、運営、およびオペレーターが、エネルギー効率が高いことを保証することにより、運営上カーボンニュートラルになるよう努めることが一般的。

l GCC (Gulf Cooperation Council)

・GCC(Gulf Cooperation Council・湾岸協力会議)の多くの州は、国連の持続可能な開発目標を達成するために、それぞれの政府のための政策とガイドラインを実施し始めている。
・第26回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)が、2021年10月にグラスゴーで開催されGCC(具体的には、クウェート、UAE、サウジアラビア)は、気候変動危機への取り組みによって2030年までにメタン排出レベルを30%削減することを約束
・GCC諸国は、持続可能性の達成を支援するためのガイドラインとポリシーを設定。ドバイサステイナブルツーリズムはその代表的な例であり、ホテルが遵守しなければならない持続可能性の要件(持続可能なマネジメント、パフォーマンス指標、適正な水利用など)を取り決めている。この要件は全ジャンルのホテルに適用され、炭素計算ツールを介して毎月排出量を提出する必要がある。
・バーレーンでは、上場企業のホテル経営者に持続可能なレベルでの最善案と基準を維持するために環境、社会、ガバナンスのレポートを提出することを奨励しています。

l  認定制度の改善

持続可能性の認定制度を改善しようとする場合、ホテル経営者にとって重要な事項は次のとおり。
・建設:UNSDG(国連 持続可能な開発目標)に準拠した持続可能な地元の建設資材の調達と使用。
・ホテルの設備:持続可能な機能には、スマートシャワー(シャワーの長さ制限)、自動ライトセンサー、室内の温度を調整する専用センサー付きのサーモスタット、持続可能な素材で作られた家具等。
・エネルギー効率の遵守:ホテルオーナーは、エネルギー使用を制限すると同時に、エネルギー効率をモニタリングし、エネルギー効率の良い設備を導入しようとする。
・資金調達と補助金:関係者の全てが持続可能な不動産に集中することを奨励するために、持続可能な不動産ポートフォリオに資金を提供するためのグリーンローン。GCC諸国の環境に関する一般規則(1997年)には、GCC全体の金融機関および融資機関が融資または融資するプロジェクトの環境的側面を考慮に入れるための目標が含まれている。
・契約書式:書面では、契約期間中に両当事者が持続可能性へのサポートをする義務を組み込むこと。成功例として、「ワンタオル」ポリシー、ウォーターボトルステーションの設置、滞在中のベッドシーツ交換回数の制限等がある。

l  持続可能なプロジェクト

GCC全体で多くの持続可能なプロジェクトが実施されている。
・Expo2020ドバイでは、持続可能な環境のために太陽エネルギーと結露で「木」に水やりをした。
・RoveExpoホテルには、持続可能な室内アメニティが備わっている。
・サウジアラビアは現在、観光セクターでも活況を呈しており、再生可能天然資源の使用に重点を置いて、スマートシティを構築する準備をしている。
・従業員に投資し、学習機会を強化することは、公平で持続可能な未来を確実にするためのもう1つのアプローチ。

Consideration

ホテル業界ESGのSにおいて、従業員の教育は非常に重要なテーマです。
ホテルに限らずホスピタリティ業界の人材は、一般的に、ホスピタリティ業界にしか転職しづらいという現状があります。

例えば、2021年7月米小売り最大手ウォルマートは国内で提携する大学など10校で学ぶ従業員の学費と書籍代を全額負担する制度を発表しました。参加する従業員はウォルマートでパートタイムまたはフルタイムの勤務を続けることを条件とし、経営学やサイバーセキュリティーの分野で取得できる学位や資格の選択肢も広げるとのこと。同社幹部によると、これまでの参加者は昇進する率が倍増し、定着率も高い傾向がみられたとのこと。

また、同年9月には、米インターネット通販最大手アマゾン・ドット・コムが、米国の物流拠点で働く時間給の従業員75万人を対象に、大学の授業料を全額支払うと発表しました。入社90日目以降の大学の授業料、手数料、教科書代を負担。国内の数百の教育機関での学位取得に適用され、高校卒業資格取得に向けたプログラムや、英語を母語としない従業員の英語資格などの関連費用も対象とするとしています。

大前提には人手不足の問題があり、福利厚生を拡充させて人材確保に努めるのが一番の理由かも知れませんが、従業員の離職率を下げ、優秀な人材を育てていくことがステークホルダーの利害と一致します。

ホテル業界でもサービス業務だけではなく、従業員に他業種・他業界でも活躍できるスキルを身に付ける投資を行うことが自社の発展につながります。

日本初のゼロ・エネルギーホテル『ITOMACHI HOTEL 0』

愛媛県西条市に2023年5月にOPENした ITOMACHI HOTEL 0 は、環境省が定める「ZEB」認証を取得した日本初のホテルです。

愛媛県西条市に本社のある、半導体機器製造メーカーで再生エネルギーや地方創生、まちづくり事業も展開する株式会社アドバンテック社と、国内外で話題のホテルを手掛ける株式会社GOODTIME社が、隈研吾氏の建築設計により開業しました。

予約時に無理を言って、ホテルの話を伺いたいと申し出たところ、なんとGOODTIME社の明山社長がお見えになり、館内外をご案内くださいました!

ゼロエネルギーの仕組みが一目で理解できるインフォグラフィックス

ホテルのレセプションに到着するとまず目に飛び込んでくるのは、インフォグラフィックス。
(そこまで目立つように置かれているわけではないのですが、私のように、ゼロエネルギーを目的として泊まりに来る人にとっては目に飛び込んでくるはずです)
以下で紹介するのはデモ画面ですが、ホテルが消費しているエネルギー量と生み出しているエネルギー量が掲載されています。
ZEBのために蓄電池とコージェネ(CGS発電機)も用意したものの、開業以来使用したことが無く、太陽光発電で全てまかなえているとのことでした。
また災害時の避難所としても機能するように、電力供給が止まっても72時間自家発電で電気が使えるようになっています。

水道代が無料の西条市

西条市は湧き水が豊富で、上水道が無料の市としても知られています。
水の豊富な西条市ならではで、客室には水の流れる仕組みがみられる透明の蛇口があります。

サステナビリティを徹底した客室アメニティ

客室には当然ペットボトルの水は置いておらず、西条の湧き水が入ったボトルが用意されています。客室からウォーターボトルに水を汲んで出かけることも出来るし、街中で水を汲むことも出来ます。
併設する『いとまちマルシェ』で買い物をするときにも使えるエコバックも用意されています。

滞在に便利な設備『ゲストキッチン』を併設

宿泊スタイルは、朝食付きプランはあるものの、夕食は提供しておらず『いとまちマルシェ』や近隣の飲食店を紹介しています。あるいは、ホテル内にキッチンがあるのでよそで購入したものを持ちこんで調理をすることも出来ます。
訪問者に滞在中に街中に出てもらうことは、ホテルがサステナブルな地域づくりに貢献するのに重要な視点です。

サイクリストの滞在にも最適!

客室内にそのまま自転車を持ち込める仕様となっている上、駐輪場、コインランドリーもあり、サイクリストの滞在にも適しています。サステナブルツーリズムへの相性も抜群です。

『愛媛のたのしみ』を0から体験―愛媛づくしのホテル

  • 客室の色調は、伊予青石を基調にしたブルー
  • 朝食は、地元愛媛の産地から仕入れた旬の野菜や果物を使用
  • 砥部焼の窯元「遠藤窯」によるオリジナル湯呑と急須
  • 松山市「ICOI COFFEE」によるオリジナルドリップパック
  • 西条発の銘菓「たぬきまんじゅう」
  • 愛媛有数のお茶どころ新宮町で、古くから新宮茶のパイオニア「脇製茶」の緑茶
  • 愛媛在住の和紙デザイナーによる和紙アート
  • 西条の水の音をサンプリングした自動温泉構築システム「AISO」による館内音楽

等々、愛媛にどっぷり浸かった滞在ができます。愛媛を中心にホテル建設にかかわった方々が紹介されたパネルもあります。

ITOMACHI HOTEL 0 の生まれた経緯

実はこのホテル。ホテルありきで造られたのかとと思いきや、アドバンテック社が西条市の住民から意見を募って作られたのだそうです。
同社が再生可能エネルギーの拠点づくりのために地方をめぐる中で「人がいない」「何もない」「活気がない」という日本の地方都市の厳しい現実を実感させられました。地元西条も例外ではなく、「街のにぎわいを取り戻したいこと」、「若者や挑戦する人にチャンスを与えられる街にしたいこと」の2つを趣旨にした上で、隈研吾さんとプロジェクトを始動。住民の意見を取り入れたところ、ホテルという拠点が採用されたとのことでした。
どうしても「日本初」という冠にはこだわりたかったという明山社長。
水資源が豊富な西条市というブランドとも相まって、日本初のゼロエネルギーホテルが完成したようです。
オープン後は、市民から「帰省した親族が泊まる場所ができた」と喜ばれているそうです。

ITOMACHI HOTEL 0 を訪れてみて

念願叶って訪れたITOMACHI HOTEL 0では、

  • ゼロエネルギーを視覚にして伝えるインフォグラフィックス
  • 愛媛県産のものをとことん追求・表現した設備、備品、アメニティ、食事
  • ゼロエネルギーホテルを謳いながらも僅か60㎡の客室に最新のエアコンが3台も設置されていること、それが必要ないほどの客室の機密性の高さ
  • ホテル外への回遊を促す滞在の提案
  • 宿泊客に媚びる(主張する)ことなくスタイリッシュにサステナビリティを実現していること
  • 地元住民の声から生まれて、支持されているホテルであること
  • 災害時の避難拠点となっていること

等、私にとっては興奮ものでしたが、私のように”ゼロエネルギー”が滞在動機となり泊まりにくる客は全体の3%程度だそうです。(企業や団体の視察は除く)

明山社長も、「なんか素敵なホテルだな」とか「評判の良いホテルだから」と泊まりに来たら、実はゼロエネルギーホテルだったと気付いてくれる位で良いと思っている とのことでした。

旅行者がサステナビリティに熱心に取り組んでいる宿を選ぶという消費行動はまだまだ先の話になりそうですが、サステナビリティに取り組む宿に泊まった事実というのは、結果的に宿泊客にとって後味の良いものになるのだろうと思います。
宿泊業では、滞在前と滞在中の印象を良くすることは比較的手が付けやすくアイデアも出やすいですが、滞在後の印象を良くすることは難しく、ハードルが高いものです。
その点、サステナビリティ経営に注力している宿は滞在後の評価を上げることができるのが大きなアドバンテージとなるのだろうと考えさせられた滞在となりました。


Sentosa Development Corporation has joined as a Member of the Global Sustainable Tourism Council (GSTC)

Global Sustainable Tourism Council(GSTC)とは、グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会は、世界的な旅行および観光分野における観光産業界の専門家や、政府機関のための持続可能な開発の基準を定め、管理する国際非営利団体です。