Sustainable Tourism

観光産業はネットゼロを達成できるか?

2022年1月30日

Source:
https://oilprice.com/The-Environment/Global-Warming/Can-The-Tourism-Industry-Achieve-Net-Zero.html

Summary

2021年11月 世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)において国連環境計画がアクセンチュアと協力して発表したレポートは、脱炭素化に関して世界の観光産業が直面しているいくつかの課題を浮き彫りにした。

l  2019年、観光産業は10年連続で成長。世界中で14.7億人の国際観光客があり、世界のGDPの10%以上を占め、10人に1人が観光産業に従事

l  その一方で、世界の温室効果ガス排出量のうち約8%が観光業界から排出されている

サステイナブルツーリズムグローバルセンター(※)の主張

(※)観光セクターのネットゼロへの移行を加速することを目的とした新しい多国籍連合

l  サステイナブルツーリズムグローバルセンターは、2021年10月にサウジアラビアで発足。連合の第一段階で参加を呼びかけられた国は、英国、米国、フランス、日本、ドイツ、ケニア、ジャマイカ、モロッコ、スペイン、サウジアラビアの10ヶ国

l  急速に「これまで通りの観光産業」に戻ると、最終的には損害を与え、持続不可能になる。業界はネットゼロと、より環境に配慮した考え方の採用に取り組むべき

サウジアラビアの紅海観光プロジェクト

l  このプロジェクトは、2021年、初めてのリヤル建てのグリーンファイナンスクレジットファシリティを通じて38億ドルを確保

l  プロジェクトは28,000平方キロメートルの敷地に建設。2030年には、50のホテル、豪華なマリーナ、さまざまな娯楽施設やレジャー施設が設置。新しい空港を含むサイトの輸送ネットワーク全体は、再生可能エネルギーが動力源。

l  持続可能性への取り組みが認められ、2021年の終わりに、英国とアイルランドのチャータードガバナンスインスティテュートからESGイニシアチブオブザイヤーに選定

Science-Based Target initiative (SBTi)

l  パリ協定に沿って温室効果ガス排出量を削減するための定義されたフレームワークを企業に提供するグローバルな組織

l  科学ベースの為、企業が持続可能性のパフォーマンスを誤って判断したり、誤って伝えたりすることを防ぐこと

リゾート地の脱炭素化に向けた先行事例

l  2018年、アルバ(ベネズエラ)のブカティ&タラビーチリゾートは、カリブ海初、世界で最初にカーボンニュートラルリゾートに

l  2019年、サムイ島(タイ)のサンティブリリゾートがタイの温室効果ガス管理機構とVGreenによってカーボンニュートラルとして認定

l  2020年、イシュグルスキーリゾート(オーストリア)は、気候変動対策ソリューションプロバイダーであるClimatePartnerから気候変動中立証明書を授与

世界初のネットゼロホテル

l  2021年12月、ロンドン近郊のチズウィックにあるホスピタリティブランドRoom2が運営。ソーラーパネルと地中熱ヒートポンプを搭載した86室の客室と、その他の環境に配慮した機能が備わっている

航空会社のネットゼロへの動き カーボンオフセットおよび削減スキームCarbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviatio(CORSIA)

l  2016年、国連は国際航空のためのカーボンオフセットおよび削減スキーム(CORSIA)を開始。このスキームは、キャリアが他のセクターから排出削減オフセットを購入できるようにすることを目的としており、それによって自社の排出量の増加を補償する。

Consideration

CORSIAについて


CORSIAについてですが、日本国内でも国土交通省航空局の「航空機運航分野におけるCO2削減に関する検討会(第1回)」の資料に言及があります。

出典)https://www.mlit.go.jp/common/001395880.pdf

日本の国際線も、2035年までの削減手段としてCORSIAの制度を導入することが明記されています。2027年以降はカーボンオフセットが義務化され、排出量の相殺が求められるようになります。

日本の航空会社のCO2排出量を見てみると、
JALはスコープ1が909万トン(2019年)、スコープ2で8万トン(2013年)です。
これを2030年にそれぞれ818万トン、4万トンという目標を掲げています。

出典)https://www.jal.com/ja/sustainability/environment/climate-action/


ANAのCO2排出量は、2019年の国内線の排出量が400万トンとしか明記されておらず、国際線含めたものやスコープ2、3の分の言及は無かったのですが、2030年の目標としては2019年以下になるようにと少し弱気な印象です。

出典)https://www.ana.co.jp/group/csr/environment/goal/


このように、航空業界はCOVID-19による特に国際線の需要減退という厳しい最中にありながら、気候変動への早急な対策が求められています。
まずは、自社の排出量を把握し、目標を定めるところから具体的な対策を取ることが求められています。

ロンドンの世界発のネットゼロホテル「room2 Chiswick」


「room2 Chiswick」の具体的な取り組みをみてみました。
取り組みの数の多さと徹底ぶりに感心してしまいます。

ホテルのサイトに掲載されている取り組みを以下に紹介します。

1.       避けられない排出量については、フットプリントを計算し森林再生パートナーとの相殺し、カーボンリバランスを図る

2.       基本的なホテルよりも89%も少ないエネルギーでの運営

3.       化石燃料の不使用、再生可能なグリーンエネルギーからの電力供給

4.       ウルトラ低流量シャワーで40%の水の削減

5.       暖房と冷房にはホテルの200m下にあるヒートポンプを使用

6.       年間のエネルギー消費のうちの5%を太陽光発電から供給

7.       人感システムで客室の証明と空調の無駄の削減

8.       ゲストの客室使用状況をモニタリングし研究する2つ研究所

9.       オーダーメードの家具の100%はリサイクル、再生材料とFSC認証木材を使用かつホテルから10マイル以内で製造

10.    家具のカーボンオフセットをするために、4,462本の木を植樹

11.    屋上緑化で建物の断熱および昆虫の家を提供することによる生物多様性の促進

12.    屋上緑化の下には雨水を50,000lストックできる屋根の設置.局地的な洪水のリスクを減らす

13.    全ての廃棄物はリサイクルかエネルギーに変換

14.    一般廃棄物、混合リサイクル、食品廃棄物をセットにした街中のゴミ箱の企画・製造

15.    屋上の75,000匹のミツバチによる生物多様性の支援とオリジナル蜂蜜の製造

「room2 Chiswick」のラミントングループは、建物からの年間排出量が全体の40%を占めていることを指摘し、さらにホテル業界が後れを取っていることを指摘しています。

グループのスコープ1~スコープ3のGHG排出も算出しており、自社のポジションをよく把握しています。

出典)https://room2.com/chiswick/sustainability/

ラミントングループを見ていると、カーボンオフセットや気候変動への取り組みにはまずは数字に基づいた自分の立ち位置を知ること。そこから全ての行動が始まっていると感じます。

参考)

https://lamingtongroup.com/sustainability/net-zero/

日本初のゼロ・エネルギーホテル『ITOMACHI HOTEL 0』

愛媛県西条市に2023年5月にOPENした ITOMACHI HOTEL 0 は、環境省が定める「ZEB」認証を取得した日本初のホテルです。

愛媛県西条市に本社のある、半導体機器製造メーカーで再生エネルギーや地方創生、まちづくり事業も展開する株式会社アドバンテック社と、国内外で話題のホテルを手掛ける株式会社GOODTIME社が、隈研吾氏の建築設計により開業しました。

予約時に無理を言って、ホテルの話を伺いたいと申し出たところ、なんとGOODTIME社の明山社長がお見えになり、館内外をご案内くださいました!

ゼロエネルギーの仕組みが一目で理解できるインフォグラフィックス

ホテルのレセプションに到着するとまず目に飛び込んでくるのは、インフォグラフィックス。
(そこまで目立つように置かれているわけではないのですが、私のように、ゼロエネルギーを目的として泊まりに来る人にとっては目に飛び込んでくるはずです)
以下で紹介するのはデモ画面ですが、ホテルが消費しているエネルギー量と生み出しているエネルギー量が掲載されています。
ZEBのために蓄電池とコージェネ(CGS発電機)も用意したものの、開業以来使用したことが無く、太陽光発電で全てまかなえているとのことでした。
また災害時の避難所としても機能するように、電力供給が止まっても72時間自家発電で電気が使えるようになっています。

水道代が無料の西条市

西条市は湧き水が豊富で、上水道が無料の市としても知られています。
水の豊富な西条市ならではで、客室には水の流れる仕組みがみられる透明の蛇口があります。

サステナビリティを徹底した客室アメニティ

客室には当然ペットボトルの水は置いておらず、西条の湧き水が入ったボトルが用意されています。客室からウォーターボトルに水を汲んで出かけることも出来るし、街中で水を汲むことも出来ます。
併設する『いとまちマルシェ』で買い物をするときにも使えるエコバックも用意されています。

滞在に便利な設備『ゲストキッチン』を併設

宿泊スタイルは、朝食付きプランはあるものの、夕食は提供しておらず『いとまちマルシェ』や近隣の飲食店を紹介しています。あるいは、ホテル内にキッチンがあるのでよそで購入したものを持ちこんで調理をすることも出来ます。
訪問者に滞在中に街中に出てもらうことは、ホテルがサステナブルな地域づくりに貢献するのに重要な視点です。

サイクリストの滞在にも最適!

客室内にそのまま自転車を持ち込める仕様となっている上、駐輪場、コインランドリーもあり、サイクリストの滞在にも適しています。サステナブルツーリズムへの相性も抜群です。

『愛媛のたのしみ』を0から体験―愛媛づくしのホテル

  • 客室の色調は、伊予青石を基調にしたブルー
  • 朝食は、地元愛媛の産地から仕入れた旬の野菜や果物を使用
  • 砥部焼の窯元「遠藤窯」によるオリジナル湯呑と急須
  • 松山市「ICOI COFFEE」によるオリジナルドリップパック
  • 西条発の銘菓「たぬきまんじゅう」
  • 愛媛有数のお茶どころ新宮町で、古くから新宮茶のパイオニア「脇製茶」の緑茶
  • 愛媛在住の和紙デザイナーによる和紙アート
  • 西条の水の音をサンプリングした自動温泉構築システム「AISO」による館内音楽

等々、愛媛にどっぷり浸かった滞在ができます。愛媛を中心にホテル建設にかかわった方々が紹介されたパネルもあります。

ITOMACHI HOTEL 0 の生まれた経緯

実はこのホテル。ホテルありきで造られたのかとと思いきや、アドバンテック社が西条市の住民から意見を募って作られたのだそうです。
同社が再生可能エネルギーの拠点づくりのために地方をめぐる中で「人がいない」「何もない」「活気がない」という日本の地方都市の厳しい現実を実感させられました。地元西条も例外ではなく、「街のにぎわいを取り戻したいこと」、「若者や挑戦する人にチャンスを与えられる街にしたいこと」の2つを趣旨にした上で、隈研吾さんとプロジェクトを始動。住民の意見を取り入れたところ、ホテルという拠点が採用されたとのことでした。
どうしても「日本初」という冠にはこだわりたかったという明山社長。
水資源が豊富な西条市というブランドとも相まって、日本初のゼロエネルギーホテルが完成したようです。
オープン後は、市民から「帰省した親族が泊まる場所ができた」と喜ばれているそうです。

ITOMACHI HOTEL 0 を訪れてみて

念願叶って訪れたITOMACHI HOTEL 0では、

  • ゼロエネルギーを視覚にして伝えるインフォグラフィックス
  • 愛媛県産のものをとことん追求・表現した設備、備品、アメニティ、食事
  • ゼロエネルギーホテルを謳いながらも僅か60㎡の客室に最新のエアコンが3台も設置されていること、それが必要ないほどの客室の機密性の高さ
  • ホテル外への回遊を促す滞在の提案
  • 宿泊客に媚びる(主張する)ことなくスタイリッシュにサステナビリティを実現していること
  • 地元住民の声から生まれて、支持されているホテルであること
  • 災害時の避難拠点となっていること

等、私にとっては興奮ものでしたが、私のように”ゼロエネルギー”が滞在動機となり泊まりにくる客は全体の3%程度だそうです。(企業や団体の視察は除く)

明山社長も、「なんか素敵なホテルだな」とか「評判の良いホテルだから」と泊まりに来たら、実はゼロエネルギーホテルだったと気付いてくれる位で良いと思っている とのことでした。

旅行者がサステナビリティに熱心に取り組んでいる宿を選ぶという消費行動はまだまだ先の話になりそうですが、サステナビリティに取り組む宿に泊まった事実というのは、結果的に宿泊客にとって後味の良いものになるのだろうと思います。
宿泊業では、滞在前と滞在中の印象を良くすることは比較的手が付けやすくアイデアも出やすいですが、滞在後の印象を良くすることは難しく、ハードルが高いものです。
その点、サステナビリティ経営に注力している宿は滞在後の評価を上げることができるのが大きなアドバンテージとなるのだろうと考えさせられた滞在となりました。


Sentosa Development Corporation has joined as a Member of the Global Sustainable Tourism Council (GSTC)

Global Sustainable Tourism Council(GSTC)とは、グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会は、世界的な旅行および観光分野における観光産業界の専門家や、政府機関のための持続可能な開発の基準を定め、管理する国際非営利団体です。