ESG of Tourism industry

ホテルのタオルを再利⽤するアイデアを生んだ Scandic Hotel-2022年持続可能性レポート

1993年にホテルのタオルを再利⽤するアイデアを生んだスウェーデンのScandic社。

1963 年に設立のScandicは北欧最大のホテル運営会社で、6 か国で約 280 のホテル、58,000 室のネットワークを展開。同社は『持続可能性』に重点を置いており、200 以上のホテルがNORDIC SWAN ECOLABEL(ノルディック スワン エコラベル)の認定を受けています。
また、2015 年12月にはナスダックストックホルムに上場も果たしている企業です。

上場企業であることに加え、『企業責任』というキーワードが企業のDNAに刷り込まれていることもあり、同社のサステナビリティレポートは内容が充実しており、見応えがありました。上場するはるか以前の1996年からサステナビリティデータ報告を開始していたというのは驚きです。

Scandic社のサステナビリティへの取り組みを遡ると1993年にホテルのタオルを再利用するところから始まったようです。

出所:Scandic publishes its Annual & Sustainability Report 2022

また、SDGsの開発目標を参照しながら、『社会への責任』を土台に、世界基準の北欧のホテル滞在を提供することを目標に掲げています。

出所:Scandic publishes its Annual & Sustainability Report 2022

数値目標と進捗

  • ダイバーシティ&インクルージョン…<2026年目標>ダイバーシティ&インクルージョンスコア8.8(2022年中に達成)※アクセシビリティでは、159のポイントを含む基準を策定。すべてのホテルでアレルギー対応の客室を完備。
  • 食品廃棄物…<2026年目標>2019年比で25%削減(2022年時点で14%削減達成)
  • 1㎡あたりのCO2e排出量…<2030年目標>2019年比で50%削減(2022年時点で29%削減達成)
  • アニマルウェルフェア…<2026年目標>購入する鶏肉の 100% を ECC 基準に準拠したものにする。スウェーデンとデンマークでは、提供する鶏肉の少なくとも 20% が放し飼い農場で飼育されたものであることを保証する。
  • 植物由来の食品提供…<2025年目標> ゲストと環境の両方のために、提供する植物ベースの食品の割合を60%に増やす。
  • 水の消費量…2022年は2019年と比較して、7%削減達成しています。

認証と表彰

  • 2022 年末時点で、271 軒のホテルのうち 207 軒がノルディック スワン エコラベルの認定を取得
  • デンマークで最も持続可能なホテルを表彰するデンマーク気候賞で、7 つの賞のうち 5 つを受賞
  • CDP から B スコアを取得
  • HRS グリーン ステイ イニシアチブの対象となり、93% が最⾼の評価を受ける。また、booking.com では、すべてのスカンディック ホテルが「持続可能な取り組みをするホテル」として指定される
  • 2022年、EcoVadis の年次持続可能性評価で⾦メダルを獲得

このように、持続可能性に対して重点を置くScandicの直近の中間報告書 Q1 REPORT 2023 を見ると、業績も好調で、ARRもRevPARもコロナ前の水準にを上回っています。EBITDAは2023年第一四半期の時点で既にプラスになっていました。
2025年までの資金調達の目途も立っているようで、2023年はドイツフランクフルトで500室規模のホテルを新規オープン。同年9月にはストックホルムに新ブランド「Scandic Go」を立ち上げる予定とのことです。

このようなホテルを体感したいと思い、2023年4月にスウェーデンストックホルムにある「Scandic Continental」に宿泊してきました。

滞在後にホテルから届くアンケートに回答したところ、

  • 当館のサステナビリティへの積極的な取り組みをどの程度感じましたか?
  • 滞在中にサステナブルで環境に優しいオプションを選択することができましたか?

という項目もあり、ゲストへの浸透度を測り、反響を伺っていることが分かります。

今後も宿泊業界のサステナビリティ推進のリーディングカンパニーとしてスタンダードを築いていくことでしょう。

日本初のゼロ・エネルギーホテル『ITOMACHI HOTEL 0』

愛媛県西条市に2023年5月にOPENした ITOMACHI HOTEL 0 は、環境省が定める「ZEB」認証を取得した日本初のホテルです。

愛媛県西条市に本社のある、半導体機器製造メーカーで再生エネルギーや地方創生、まちづくり事業も展開する株式会社アドバンテック社と、国内外で話題のホテルを手掛ける株式会社GOODTIME社が、隈研吾氏の建築設計により開業しました。

予約時に無理を言って、ホテルの話を伺いたいと申し出たところ、なんとGOODTIME社の明山社長がお見えになり、館内外をご案内くださいました!

ゼロエネルギーの仕組みが一目で理解できるインフォグラフィックス

ホテルのレセプションに到着するとまず目に飛び込んでくるのは、インフォグラフィックス。
(そこまで目立つように置かれているわけではないのですが、私のように、ゼロエネルギーを目的として泊まりに来る人にとっては目に飛び込んでくるはずです)
以下で紹介するのはデモ画面ですが、ホテルが消費しているエネルギー量と生み出しているエネルギー量が掲載されています。
ZEBのために蓄電池とコージェネ(CGS発電機)も用意したものの、開業以来使用したことが無く、太陽光発電で全てまかなえているとのことでした。
また災害時の避難所としても機能するように、電力供給が止まっても72時間自家発電で電気が使えるようになっています。

水道代が無料の西条市

西条市は湧き水が豊富で、上水道が無料の市としても知られています。
水の豊富な西条市ならではで、客室には水の流れる仕組みがみられる透明の蛇口があります。

サステナビリティを徹底した客室アメニティ

客室には当然ペットボトルの水は置いておらず、西条の湧き水が入ったボトルが用意されています。客室からウォーターボトルに水を汲んで出かけることも出来るし、街中で水を汲むことも出来ます。
併設する『いとまちマルシェ』で買い物をするときにも使えるエコバックも用意されています。

滞在に便利な設備『ゲストキッチン』を併設

宿泊スタイルは、朝食付きプランはあるものの、夕食は提供しておらず『いとまちマルシェ』や近隣の飲食店を紹介しています。あるいは、ホテル内にキッチンがあるのでよそで購入したものを持ちこんで調理をすることも出来ます。
訪問者に滞在中に街中に出てもらうことは、ホテルがサステナブルな地域づくりに貢献するのに重要な視点です。

サイクリストの滞在にも最適!

客室内にそのまま自転車を持ち込める仕様となっている上、駐輪場、コインランドリーもあり、サイクリストの滞在にも適しています。サステナブルツーリズムへの相性も抜群です。

『愛媛のたのしみ』を0から体験―愛媛づくしのホテル

  • 客室の色調は、伊予青石を基調にしたブルー
  • 朝食は、地元愛媛の産地から仕入れた旬の野菜や果物を使用
  • 砥部焼の窯元「遠藤窯」によるオリジナル湯呑と急須
  • 松山市「ICOI COFFEE」によるオリジナルドリップパック
  • 西条発の銘菓「たぬきまんじゅう」
  • 愛媛有数のお茶どころ新宮町で、古くから新宮茶のパイオニア「脇製茶」の緑茶
  • 愛媛在住の和紙デザイナーによる和紙アート
  • 西条の水の音をサンプリングした自動温泉構築システム「AISO」による館内音楽

等々、愛媛にどっぷり浸かった滞在ができます。愛媛を中心にホテル建設にかかわった方々が紹介されたパネルもあります。

ITOMACHI HOTEL 0 の生まれた経緯

実はこのホテル。ホテルありきで造られたのかとと思いきや、アドバンテック社が西条市の住民から意見を募って作られたのだそうです。
同社が再生可能エネルギーの拠点づくりのために地方をめぐる中で「人がいない」「何もない」「活気がない」という日本の地方都市の厳しい現実を実感させられました。地元西条も例外ではなく、「街のにぎわいを取り戻したいこと」、「若者や挑戦する人にチャンスを与えられる街にしたいこと」の2つを趣旨にした上で、隈研吾さんとプロジェクトを始動。住民の意見を取り入れたところ、ホテルという拠点が採用されたとのことでした。
どうしても「日本初」という冠にはこだわりたかったという明山社長。
水資源が豊富な西条市というブランドとも相まって、日本初のゼロエネルギーホテルが完成したようです。
オープン後は、市民から「帰省した親族が泊まる場所ができた」と喜ばれているそうです。

ITOMACHI HOTEL 0 を訪れてみて

念願叶って訪れたITOMACHI HOTEL 0では、

  • ゼロエネルギーを視覚にして伝えるインフォグラフィックス
  • 愛媛県産のものをとことん追求・表現した設備、備品、アメニティ、食事
  • ゼロエネルギーホテルを謳いながらも僅か60㎡の客室に最新のエアコンが3台も設置されていること、それが必要ないほどの客室の機密性の高さ
  • ホテル外への回遊を促す滞在の提案
  • 宿泊客に媚びる(主張する)ことなくスタイリッシュにサステナビリティを実現していること
  • 地元住民の声から生まれて、支持されているホテルであること
  • 災害時の避難拠点となっていること

等、私にとっては興奮ものでしたが、私のように”ゼロエネルギー”が滞在動機となり泊まりにくる客は全体の3%程度だそうです。(企業や団体の視察は除く)

明山社長も、「なんか素敵なホテルだな」とか「評判の良いホテルだから」と泊まりに来たら、実はゼロエネルギーホテルだったと気付いてくれる位で良いと思っている とのことでした。

旅行者がサステナビリティに熱心に取り組んでいる宿を選ぶという消費行動はまだまだ先の話になりそうですが、サステナビリティに取り組む宿に泊まった事実というのは、結果的に宿泊客にとって後味の良いものになるのだろうと思います。
宿泊業では、滞在前と滞在中の印象を良くすることは比較的手が付けやすくアイデアも出やすいですが、滞在後の印象を良くすることは難しく、ハードルが高いものです。
その点、サステナビリティ経営に注力している宿は滞在後の評価を上げることができるのが大きなアドバンテージとなるのだろうと考えさせられた滞在となりました。


Sentosa Development Corporation has joined as a Member of the Global Sustainable Tourism Council (GSTC)

Global Sustainable Tourism Council(GSTC)とは、グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会は、世界的な旅行および観光分野における観光産業界の専門家や、政府機関のための持続可能な開発の基準を定め、管理する国際非営利団体です。