ESG of Tourism industry

社会や環境に配慮した事業者認証『B Corp認証』

B Corp認証は、米国のペンシルベニア州に拠点を置く非営利団体B Lab (Bラボ)が運営する国際的な認証制度で、社会的および環境的影響を測定します。社会や環境に配慮した事業活動において一定の基準を満たした企業にのみ与えられるものです。

B CorpのBはBenefitのことを指し、従業員の福利厚生や慈善寄付、サプライチェーン、仕入品に至るまでの、根拠ある実績や説明責任、透明性においてのある一定の基準を満たしていることを示します。

企業が認証を取得するには、次のことを行う必要があります。

  • 80点以上のB Impact Assessment(影響評価スコア)を達成し、リスクレビューに合格すること。
    ※高い社会的および環境的パフォーマンス実証のため
  • コーポレートガバナンス構造を株主だけでなくすべての利害関係者に対して説明責任を負うように変更すること。
    ※法的なコミットメントを行い、B Corp認証を達成するため
  • B Labの基準において測定されたパフォーマンスを、B LabのWeb サイトの『B Corp プロファイル』で公開できるようにすること。
    ※透明性の担保。

B Corp認証を取得した後も、再認証のために 3 年ごとに検証プロセスを受ける必要があるため、B Corpは継続的な改善にも重点を置いており、長期的な回復力を形成しています。

さて、B Corp認証取得のための第一歩である、B Impact Assessment とはどのようなものなのでしょうか。

インパクトエリアとして、次の5つにカテゴライズされています。

  1. ガバナンス
  2. コミュニティ
  3. 環境
  4. 顧客
  5. 開示アンケート

どのような設問があるのか見ていくと、

ガバナンスでは、

  • 社会的または環境的に良い影響を生み出すことを優先しているか
  • 社会的・環境的なコミットメントがあるか
  • 社会的・環境的パフォーマンスについてステークホルダーに公約しているか
  • 社会的または環境的目標のKPIがあるか

コミュニティでは、

  • ビジネスモデルはステークホルダーにプラスの利益をもたらしているか
  • サプライチェーンに多様性があるか
  • メインバンクは社会的認証を得た金融機関か
  • サプライヤーの社会的・環境的影響を評価しているか
  • 取引のある人材派遣サービスの就労条件を確認しているか

環境では、

  • 製品・サービス・プロセスは、従来品と比較して環境にやさしいか
  • 会社施設はグリーンビルディング認証をどの程度取っているか
  • リモートワーク下における環境配慮行動指針があるか
  • エネルギー、水の使用量および廃棄物量をモニタリングしているか
  • 全社的な回収およびリサイクルプログラムがあるか

顧客では、

  • 製品・サービス・プロセスは顧客の社会的・経済的問題に対処しているか
  • 顧客に与える潜在的な影響に対策をとっているか

開示アンケートでは、

  • アルコール・たばこ・ギャンブル他の(社会的損害を引き起こす可能性のある)生産・運営・取引・販売にかかわっているか
  • 化石燃料、放射性物質、有害廃棄物他の(環境的損害を引き起こす可能性のある)生産・運営・取引・販売にかかわっているか
  • 過去5年間の提起された訴訟の有無
  • サプライヤーの社会的・環境的悪影響の有無

このような設問に全て回答し80点以上のスコアを取らないと認証のステップには進むことができません。尚且つ3年に1度の検証ではそのたびに検証プロセスも刷新されていることでしょう。世界が2050年のカーボンニュートラルに向けて動いているため、その検証プロセスは厳しくなることはあっても緩くなることはないと言えるでしょう。

上に挙げたのはごく一部ですが、売上やスコープ1・2・3の排出量は当然のことながら、売上当たりのCO2排出量等を回答することも求められます。
自社内に関することだけでなく、サプライヤーのことも把握できていないと回答できないものも含まれますので、B Corp認証を取得するのは容易でないことが分かります。

世界的にはB Corp認証取得企業の評価が高まっている一方で、2023年3月現在、B Corp認証を取得する日本企業は20社にとどまっています。(ちなみに、人口が日本の約半分の韓国は20社、5分の1の台湾では39社)

サプライヤーの社会的・環境的影響も無視できない時代ですので、グローバルに競争・取引していこうと考える日本企業にとって最も重要な認証制度の1つになることでしょう。

参照:https://www.bcorporation.net/en-us

日本初のゼロ・エネルギーホテル『ITOMACHI HOTEL 0』

愛媛県西条市に2023年5月にOPENした ITOMACHI HOTEL 0 は、環境省が定める「ZEB」認証を取得した日本初のホテルです。

愛媛県西条市に本社のある、半導体機器製造メーカーで再生エネルギーや地方創生、まちづくり事業も展開する株式会社アドバンテック社と、国内外で話題のホテルを手掛ける株式会社GOODTIME社が、隈研吾氏の建築設計により開業しました。

予約時に無理を言って、ホテルの話を伺いたいと申し出たところ、なんとGOODTIME社の明山社長がお見えになり、館内外をご案内くださいました!

ゼロエネルギーの仕組みが一目で理解できるインフォグラフィックス

ホテルのレセプションに到着するとまず目に飛び込んでくるのは、インフォグラフィックス。
(そこまで目立つように置かれているわけではないのですが、私のように、ゼロエネルギーを目的として泊まりに来る人にとっては目に飛び込んでくるはずです)
以下で紹介するのはデモ画面ですが、ホテルが消費しているエネルギー量と生み出しているエネルギー量が掲載されています。
ZEBのために蓄電池とコージェネ(CGS発電機)も用意したものの、開業以来使用したことが無く、太陽光発電で全てまかなえているとのことでした。
また災害時の避難所としても機能するように、電力供給が止まっても72時間自家発電で電気が使えるようになっています。

水道代が無料の西条市

西条市は湧き水が豊富で、上水道が無料の市としても知られています。
水の豊富な西条市ならではで、客室には水の流れる仕組みがみられる透明の蛇口があります。

サステナビリティを徹底した客室アメニティ

客室には当然ペットボトルの水は置いておらず、西条の湧き水が入ったボトルが用意されています。客室からウォーターボトルに水を汲んで出かけることも出来るし、街中で水を汲むことも出来ます。
併設する『いとまちマルシェ』で買い物をするときにも使えるエコバックも用意されています。

滞在に便利な設備『ゲストキッチン』を併設

宿泊スタイルは、朝食付きプランはあるものの、夕食は提供しておらず『いとまちマルシェ』や近隣の飲食店を紹介しています。あるいは、ホテル内にキッチンがあるのでよそで購入したものを持ちこんで調理をすることも出来ます。
訪問者に滞在中に街中に出てもらうことは、ホテルがサステナブルな地域づくりに貢献するのに重要な視点です。

サイクリストの滞在にも最適!

客室内にそのまま自転車を持ち込める仕様となっている上、駐輪場、コインランドリーもあり、サイクリストの滞在にも適しています。サステナブルツーリズムへの相性も抜群です。

『愛媛のたのしみ』を0から体験―愛媛づくしのホテル

  • 客室の色調は、伊予青石を基調にしたブルー
  • 朝食は、地元愛媛の産地から仕入れた旬の野菜や果物を使用
  • 砥部焼の窯元「遠藤窯」によるオリジナル湯呑と急須
  • 松山市「ICOI COFFEE」によるオリジナルドリップパック
  • 西条発の銘菓「たぬきまんじゅう」
  • 愛媛有数のお茶どころ新宮町で、古くから新宮茶のパイオニア「脇製茶」の緑茶
  • 愛媛在住の和紙デザイナーによる和紙アート
  • 西条の水の音をサンプリングした自動温泉構築システム「AISO」による館内音楽

等々、愛媛にどっぷり浸かった滞在ができます。愛媛を中心にホテル建設にかかわった方々が紹介されたパネルもあります。

ITOMACHI HOTEL 0 の生まれた経緯

実はこのホテル。ホテルありきで造られたのかとと思いきや、アドバンテック社が西条市の住民から意見を募って作られたのだそうです。
同社が再生可能エネルギーの拠点づくりのために地方をめぐる中で「人がいない」「何もない」「活気がない」という日本の地方都市の厳しい現実を実感させられました。地元西条も例外ではなく、「街のにぎわいを取り戻したいこと」、「若者や挑戦する人にチャンスを与えられる街にしたいこと」の2つを趣旨にした上で、隈研吾さんとプロジェクトを始動。住民の意見を取り入れたところ、ホテルという拠点が採用されたとのことでした。
どうしても「日本初」という冠にはこだわりたかったという明山社長。
水資源が豊富な西条市というブランドとも相まって、日本初のゼロエネルギーホテルが完成したようです。
オープン後は、市民から「帰省した親族が泊まる場所ができた」と喜ばれているそうです。

ITOMACHI HOTEL 0 を訪れてみて

念願叶って訪れたITOMACHI HOTEL 0では、

  • ゼロエネルギーを視覚にして伝えるインフォグラフィックス
  • 愛媛県産のものをとことん追求・表現した設備、備品、アメニティ、食事
  • ゼロエネルギーホテルを謳いながらも僅か60㎡の客室に最新のエアコンが3台も設置されていること、それが必要ないほどの客室の機密性の高さ
  • ホテル外への回遊を促す滞在の提案
  • 宿泊客に媚びる(主張する)ことなくスタイリッシュにサステナビリティを実現していること
  • 地元住民の声から生まれて、支持されているホテルであること
  • 災害時の避難拠点となっていること

等、私にとっては興奮ものでしたが、私のように”ゼロエネルギー”が滞在動機となり泊まりにくる客は全体の3%程度だそうです。(企業や団体の視察は除く)

明山社長も、「なんか素敵なホテルだな」とか「評判の良いホテルだから」と泊まりに来たら、実はゼロエネルギーホテルだったと気付いてくれる位で良いと思っている とのことでした。

旅行者がサステナビリティに熱心に取り組んでいる宿を選ぶという消費行動はまだまだ先の話になりそうですが、サステナビリティに取り組む宿に泊まった事実というのは、結果的に宿泊客にとって後味の良いものになるのだろうと思います。
宿泊業では、滞在前と滞在中の印象を良くすることは比較的手が付けやすくアイデアも出やすいですが、滞在後の印象を良くすることは難しく、ハードルが高いものです。
その点、サステナビリティ経営に注力している宿は滞在後の評価を上げることができるのが大きなアドバンテージとなるのだろうと考えさせられた滞在となりました。


Sentosa Development Corporation has joined as a Member of the Global Sustainable Tourism Council (GSTC)

Global Sustainable Tourism Council(GSTC)とは、グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会は、世界的な旅行および観光分野における観光産業界の専門家や、政府機関のための持続可能な開発の基準を定め、管理する国際非営利団体です。