ESG of Tourism industry

Hyatt 2021ESGレポート-world of care- HIGHLIGHTS

ハイアットがESGのコミットメントとイニシアチブの進捗状況を公開したため、そのサマリーを紹介します。

Source: https://about.hyatt.com/content/dam/hyatt/woc/2021WOCHighlights.pdf

出所:2021 ENVIRONMENTAL, SOCIAL AND GOVERNANCE HIGHLIGHTS

Summery

地球への配慮

  • 2021年にグランドハイアットシンガポールが主導した、廃棄物ゼロの料理を導入し21,000食相当を節約する等、The PLEDGE on Food Wasteと協業した食品廃棄物を削減するためのテストとラーニングの解決策を継続している。

【重点事項】

  • 気候変動、水の保全
    • 2030年までにスコープ1とスコープ2の排出量を27.5%削減(2019年比)
    • 2030年までにスコープ3排出量を1平方メートルあたり53%削減(2019年比)
  • 廃棄物、資源循環
    • 2030年までにフードロスを50%削減(2019年比)
  • 責任ある調達
    • 2025年までに100%の卵と卵製品をケージフリーにて調達
  • 観光地の繁栄
    • ハイアット リージェンシー アカバ アイラ リゾートは、クリーンアップ ザ ワールド 2021 に参加し、アカバの南のビーチからプラスチックを除去。 世界資源研究所 (WRI) の Aqueduct Water Risk Atlas や保護地域に関する世界データベース (WDPA) などのマッピング ツールを活用し積極的に対処している。

人権

  • ハイアットは同僚、ゲスト、顧客、所有者、コミュニティの幸福を大切にし、個人と職業レベルの両方を成長させることができる環境を整えることに専念している。
  • 【同僚の幸せ】に焦点を当てることで達成できる、具体的には、人材育成、人権、ボランティア活動、DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)を含んだ『Change Starts Here』コミットメントというのがハイアットのユニークな考えである。
  • 米国での代表に有色人種や、いくつかのグループでリーダーシップの役割を担うのに女性や有色人種が増えている。

【重点事項】

  • DEI(多様性、平等性、包括性)
    • 2025 年までに、主要な指導的役割における女性と黒人リーダーの代表含め、有色人種の代表をそれぞれ 2 倍に。(2020年比)
  • サプライヤーとビジネスパートナーの多様化
    • 2025 年までに、すべての多様性があり女性が経営するサプライヤーへの支出の割合の内10%を黒人のサプライヤーから調達します。
  • 地元コミュニティへの貢献、ボランティア
    • 2025年までに『Opportunity Youth』からの45%は黒人を雇用する(米国のみ)
    • 2025年までに米国の黒人コミュニティを支援する為に100万ドルの資金援助をする
    • 2025年までにシカゴの黒人コミュニティの為に1000時間のプロボノ(社会的・公共的な目的のために、職業上のスキルや専門知識を活かして取り組むボランティア活動)およびボランティアを提供する
  • 幸福
    • 2021年に従業員、ゲスト、お客様がウェルビーイングを最優先できる取り組みを進めた。メンタルヘルストラッカー『Hyatt Well-Check』を開発し、メンタルヘルスケアをできるようにした。
  • 人権
    • ハイアットのアップデートされたグロバルな人身売買トレーニングはフランチャイズ・企業オフィスを含んだ世界中の施設に義務付けられている。

責任あるビジネス

  • ハイアット、ゲスト、利害関係者のセキュリティを責任を持ってを保護するため、ホスピタリティ企業として初めて HackerOne Bug Bounty Program を利用。このプログラムを通じて、セキュリティ研究者が当社の Web サイトをテストし、ハイアットが対処すべき脆弱性にフラグを立てている。

【重点事項】

  • 公平で倫理的なビジネス
    • ビジネス取引における完全性、誠実さ、透明性を確保するための基礎となるビジネス行動規範と倫理規範を順守する。
  • データのプライバシーとセキュリティ担保
    • 毎年第三者によって評価されるハイアットのサイバーセキュリティプログラムと、ハイアットのプライバシー委員会を通じて収集したデータのプライバシーとセキュリティの保護に取り組んでいる。
  • リスクマネジメント
    • ゲストや同僚に影響を与えるリスクを含め、ビジネスに対するリスクを管理している。
  • 報告
    • World of Care Highlights や DE&I レポート などを通じて、ステークホルダーの進化するニーズを満たす有意義な情報を提供。
  • ガバナンス
    • 当社の事業は、取締役会による監督の下、社長兼最高経営責任者の指揮の下、同僚や役員によって行われる。

Consideration

ハイアットは、マリオット(約7,400施設)やヒルトン(約6,500施設)と比較すると施設数は約1,200施設と小規模ですが、【地球への配慮】に関しては、2030年を目途に、【人権】に関しては2025年を目途にかなり具体的な数値目標が示されていました。特に人権に関しては黒人(コミュニティ)への言及が多いのが印象的でした。

さて、食料廃棄物の削減に向けて協業しているとして挙げられていたThe PLEDGE on Food Wasteですが、導入実績を見ると飲食店のフードロスを30%~60%も削減できていて、それに伴う相当数のCO2排出量も削減しているとのことです。

具体的にどのような実装しているのか調べてみると、導入までのプロセスにはThe PLEDGE on Food Wasteが認証したコンサルタントが付いてかなり時間と労力を割いていることが判りました。

具体的には、

  • キックオフワークショップの開催・・・①プロジェクト参加者の紹介、②各フェーズごとのメインステップの説明、③食糧廃棄を減らすツールの紹介、④重要となる成功のカギと期待される効果、⑤認定を受けたコンサルタントと彼らの役割の紹介
  • コンプライアンストレーニング・・・①THE PLEDGEの構造とスコープの理解、②認証プロセスの把握、③各部署に連携する基準の明確化、④コンプライアンスを実証する証拠となる事例の確認
  • オンライントレーニング・・・①なぜ食品廃棄をモニタリングするのか。②どう食品廃棄をモニタリングするのか、③Food Intel Tech(FIT) Appとソフトウェアの使い方、④食品廃棄データの見方
  • 10回の訪問・・・機器が正しく作動しているか、レコーディングができているか、キッチンチームが食品廃棄の記録の付け方を100%理解しているかをサポート。

導入するツールは以下の写真のようなもののようです。

出所:Food Waste Prevention Project in Mauritius IMPACT Report

FIT tech のアプリとソフトウェアのアカウントをカスタマイズするために、基本事項や、キッチンオペレーション等について質問に答える必要があります。
そして、導入間もない時期の平均的な7日間を選択し、その期間中に廃棄された食品の合計(kg/人)を同期間中の食品総数(kg/人)で割り出し、それを基準値として設定します。

一定期間の食品の節約を計算するために、食品廃棄物 (g/人) を登録品目ごとのベースラインと比較し、達成度合いのパーセンテージを把握、金額も算出し削減度合いを測るようです。

出所:Food Waste Prevention Project in Mauritius IMPACT Report
出所:Food Waste Prevention Project in Mauritius IMPACT Report

やはり、何にでも当てはまることですが、数字にして見える化することで現状の把握と、課題解決ができるようになります。
テクノロジーの力で数値化・管理を容易にすることはサステナビリティの推進には欠かすことができません。

日本初のゼロ・エネルギーホテル『ITOMACHI HOTEL 0』

愛媛県西条市に2023年5月にOPENした ITOMACHI HOTEL 0 は、環境省が定める「ZEB」認証を取得した日本初のホテルです。

愛媛県西条市に本社のある、半導体機器製造メーカーで再生エネルギーや地方創生、まちづくり事業も展開する株式会社アドバンテック社と、国内外で話題のホテルを手掛ける株式会社GOODTIME社が、隈研吾氏の建築設計により開業しました。

予約時に無理を言って、ホテルの話を伺いたいと申し出たところ、なんとGOODTIME社の明山社長がお見えになり、館内外をご案内くださいました!

ゼロエネルギーの仕組みが一目で理解できるインフォグラフィックス

ホテルのレセプションに到着するとまず目に飛び込んでくるのは、インフォグラフィックス。
(そこまで目立つように置かれているわけではないのですが、私のように、ゼロエネルギーを目的として泊まりに来る人にとっては目に飛び込んでくるはずです)
以下で紹介するのはデモ画面ですが、ホテルが消費しているエネルギー量と生み出しているエネルギー量が掲載されています。
ZEBのために蓄電池とコージェネ(CGS発電機)も用意したものの、開業以来使用したことが無く、太陽光発電で全てまかなえているとのことでした。
また災害時の避難所としても機能するように、電力供給が止まっても72時間自家発電で電気が使えるようになっています。

水道代が無料の西条市

西条市は湧き水が豊富で、上水道が無料の市としても知られています。
水の豊富な西条市ならではで、客室には水の流れる仕組みがみられる透明の蛇口があります。

サステナビリティを徹底した客室アメニティ

客室には当然ペットボトルの水は置いておらず、西条の湧き水が入ったボトルが用意されています。客室からウォーターボトルに水を汲んで出かけることも出来るし、街中で水を汲むことも出来ます。
併設する『いとまちマルシェ』で買い物をするときにも使えるエコバックも用意されています。

滞在に便利な設備『ゲストキッチン』を併設

宿泊スタイルは、朝食付きプランはあるものの、夕食は提供しておらず『いとまちマルシェ』や近隣の飲食店を紹介しています。あるいは、ホテル内にキッチンがあるのでよそで購入したものを持ちこんで調理をすることも出来ます。
訪問者に滞在中に街中に出てもらうことは、ホテルがサステナブルな地域づくりに貢献するのに重要な視点です。

サイクリストの滞在にも最適!

客室内にそのまま自転車を持ち込める仕様となっている上、駐輪場、コインランドリーもあり、サイクリストの滞在にも適しています。サステナブルツーリズムへの相性も抜群です。

『愛媛のたのしみ』を0から体験―愛媛づくしのホテル

  • 客室の色調は、伊予青石を基調にしたブルー
  • 朝食は、地元愛媛の産地から仕入れた旬の野菜や果物を使用
  • 砥部焼の窯元「遠藤窯」によるオリジナル湯呑と急須
  • 松山市「ICOI COFFEE」によるオリジナルドリップパック
  • 西条発の銘菓「たぬきまんじゅう」
  • 愛媛有数のお茶どころ新宮町で、古くから新宮茶のパイオニア「脇製茶」の緑茶
  • 愛媛在住の和紙デザイナーによる和紙アート
  • 西条の水の音をサンプリングした自動温泉構築システム「AISO」による館内音楽

等々、愛媛にどっぷり浸かった滞在ができます。愛媛を中心にホテル建設にかかわった方々が紹介されたパネルもあります。

ITOMACHI HOTEL 0 の生まれた経緯

実はこのホテル。ホテルありきで造られたのかとと思いきや、アドバンテック社が西条市の住民から意見を募って作られたのだそうです。
同社が再生可能エネルギーの拠点づくりのために地方をめぐる中で「人がいない」「何もない」「活気がない」という日本の地方都市の厳しい現実を実感させられました。地元西条も例外ではなく、「街のにぎわいを取り戻したいこと」、「若者や挑戦する人にチャンスを与えられる街にしたいこと」の2つを趣旨にした上で、隈研吾さんとプロジェクトを始動。住民の意見を取り入れたところ、ホテルという拠点が採用されたとのことでした。
どうしても「日本初」という冠にはこだわりたかったという明山社長。
水資源が豊富な西条市というブランドとも相まって、日本初のゼロエネルギーホテルが完成したようです。
オープン後は、市民から「帰省した親族が泊まる場所ができた」と喜ばれているそうです。

ITOMACHI HOTEL 0 を訪れてみて

念願叶って訪れたITOMACHI HOTEL 0では、

  • ゼロエネルギーを視覚にして伝えるインフォグラフィックス
  • 愛媛県産のものをとことん追求・表現した設備、備品、アメニティ、食事
  • ゼロエネルギーホテルを謳いながらも僅か60㎡の客室に最新のエアコンが3台も設置されていること、それが必要ないほどの客室の機密性の高さ
  • ホテル外への回遊を促す滞在の提案
  • 宿泊客に媚びる(主張する)ことなくスタイリッシュにサステナビリティを実現していること
  • 地元住民の声から生まれて、支持されているホテルであること
  • 災害時の避難拠点となっていること

等、私にとっては興奮ものでしたが、私のように”ゼロエネルギー”が滞在動機となり泊まりにくる客は全体の3%程度だそうです。(企業や団体の視察は除く)

明山社長も、「なんか素敵なホテルだな」とか「評判の良いホテルだから」と泊まりに来たら、実はゼロエネルギーホテルだったと気付いてくれる位で良いと思っている とのことでした。

旅行者がサステナビリティに熱心に取り組んでいる宿を選ぶという消費行動はまだまだ先の話になりそうですが、サステナビリティに取り組む宿に泊まった事実というのは、結果的に宿泊客にとって後味の良いものになるのだろうと思います。
宿泊業では、滞在前と滞在中の印象を良くすることは比較的手が付けやすくアイデアも出やすいですが、滞在後の印象を良くすることは難しく、ハードルが高いものです。
その点、サステナビリティ経営に注力している宿は滞在後の評価を上げることができるのが大きなアドバンテージとなるのだろうと考えさせられた滞在となりました。


Sentosa Development Corporation has joined as a Member of the Global Sustainable Tourism Council (GSTC)

Global Sustainable Tourism Council(GSTC)とは、グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会は、世界的な旅行および観光分野における観光産業界の専門家や、政府機関のための持続可能な開発の基準を定め、管理する国際非営利団体です。