ESG of Tourism industry

ホテル業界のScope1, Scope2, Scope3 について

Scope1~3について整理した上で、ホテル業界のCO2排出についてまとめてみました。

一般企業のCO2排出については下記の通りです。

GHGプロトコルとScope3基準

GHGプロトコルは、GHGプロトコルはWRI (世界資源研究所)とWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)が共催している組織で、企業の排出量算定に関する国際スタンダードとなっている。
Scope3基準はそのGHGプロトコルが2011年11月に発行した組織のサプライチェーン全体の排出量の算定基準で、提供する製品やサービスのライフサイクル全体にわたる直接的・間接的な排出量の算出が求められている。

Scope1とは?

自社の事業活動において直接生じる温室効果ガスの排出。

例)燃料の燃焼による排出

Scope2とは?

自社の事業活動において他社から供給路受けるエネルギー製造時における間接的な排出。

例)エネルギー供給事業者からの購入電力や他の事業者からの熱や蒸気の供給に伴う排出。

Scope3とは?

Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)

例)自社で購入した原材料、部品、容器、包装等が製造されるまでの活動に伴う排出、自社で発生した廃棄物の輸送、処理に伴う排出。

15のカテゴリに分類されており、1~8までが自社の事業範囲よりも上流、9~15が下流と位置付けられている。
Scope3基準は「モノ」ではなく、「おカネ」の流れで上流と下流を考えている。
上流の定義は「原則として購入した製品やサービスに関する活動」
下流の定義は「原則として販売した製品やサービスに関する活動」
例えば、荷主(=物流業務の依頼主)の出荷輸送は、モノの流れでは下流であるが、Scope3基準では上流(カテゴリ4)に位置付けられる。

ホテル業界のScope1、Scope2、Scope3(1~15)とは?

上記を踏まえた上で、ホテル業界のCO2排出量についてまとめてみます。

ホテル業界のScope1

自社内のクリーニング工場、調理場での火力に関する排出

ホテル業界のScope2

ボイラー設備、空調設備、照明、冷蔵庫、エレベーター、その他電気製品等の使用に関する排出

ホテル業界のScope3

  1. 購入した製品・サービス
    家具、調度品、設備、備品、アメニティ、食材、飲料、事務用品、その他消耗品、クリーニングに関する排出
  2. 資本財
    新棟の新設、公共スペース・客室等リニューアル部分、従業員寮の新設に関する排出
  3. Scope1、2に含まれない燃料及びエネルギー関連活動
    調達している燃料や電力の仕入れ先企業の採掘・精製等に関する排出
  4. 輸送、配送(上流)
    1.とはどう違うのか?
  5. 事業活動から出る廃棄物
    事業ゴミ収集業者、廃棄物処理業者に関する排出
  6. 出張
    従業員の出張に関する排出
  7. 雇用者の通勤
    従業員の通勤に関する排出
  8. リース資産(上流)
    ※Scope1、2に計上するため該当なしのケースが大半
  9. 輸送、配送(下流)
    売店商品の配送に関する排出
  10. 販売した製品の加工
    基本的には該当なし
  11. 販売した製品の使用
    宿泊客が滞在時の消費電力等に関する排出
  12. 販売した製品の廃棄
    宿泊客が出した廃棄物の処理に関する排出
  13. リース資産(下流)
    基本的には該当なし
  14. フランチャイズ
    自社が主宰するフランチャイズ(FC)加盟者のScope1、2に該当する活動に関する排出
  15. 投資

その他(任意)・・・宿泊客が自社に来るための交通手段(往路・復路)に関する排出

日本初のゼロ・エネルギーホテル『ITOMACHI HOTEL 0』

愛媛県西条市に2023年5月にOPENした ITOMACHI HOTEL 0 は、環境省が定める「ZEB」認証を取得した日本初のホテルです。

愛媛県西条市に本社のある、半導体機器製造メーカーで再生エネルギーや地方創生、まちづくり事業も展開する株式会社アドバンテック社と、国内外で話題のホテルを手掛ける株式会社GOODTIME社が、隈研吾氏の建築設計により開業しました。

予約時に無理を言って、ホテルの話を伺いたいと申し出たところ、なんとGOODTIME社の明山社長がお見えになり、館内外をご案内くださいました!

ゼロエネルギーの仕組みが一目で理解できるインフォグラフィックス

ホテルのレセプションに到着するとまず目に飛び込んでくるのは、インフォグラフィックス。
(そこまで目立つように置かれているわけではないのですが、私のように、ゼロエネルギーを目的として泊まりに来る人にとっては目に飛び込んでくるはずです)
以下で紹介するのはデモ画面ですが、ホテルが消費しているエネルギー量と生み出しているエネルギー量が掲載されています。
ZEBのために蓄電池とコージェネ(CGS発電機)も用意したものの、開業以来使用したことが無く、太陽光発電で全てまかなえているとのことでした。
また災害時の避難所としても機能するように、電力供給が止まっても72時間自家発電で電気が使えるようになっています。

水道代が無料の西条市

西条市は湧き水が豊富で、上水道が無料の市としても知られています。
水の豊富な西条市ならではで、客室には水の流れる仕組みがみられる透明の蛇口があります。

サステナビリティを徹底した客室アメニティ

客室には当然ペットボトルの水は置いておらず、西条の湧き水が入ったボトルが用意されています。客室からウォーターボトルに水を汲んで出かけることも出来るし、街中で水を汲むことも出来ます。
併設する『いとまちマルシェ』で買い物をするときにも使えるエコバックも用意されています。

滞在に便利な設備『ゲストキッチン』を併設

宿泊スタイルは、朝食付きプランはあるものの、夕食は提供しておらず『いとまちマルシェ』や近隣の飲食店を紹介しています。あるいは、ホテル内にキッチンがあるのでよそで購入したものを持ちこんで調理をすることも出来ます。
訪問者に滞在中に街中に出てもらうことは、ホテルがサステナブルな地域づくりに貢献するのに重要な視点です。

サイクリストの滞在にも最適!

客室内にそのまま自転車を持ち込める仕様となっている上、駐輪場、コインランドリーもあり、サイクリストの滞在にも適しています。サステナブルツーリズムへの相性も抜群です。

『愛媛のたのしみ』を0から体験―愛媛づくしのホテル

  • 客室の色調は、伊予青石を基調にしたブルー
  • 朝食は、地元愛媛の産地から仕入れた旬の野菜や果物を使用
  • 砥部焼の窯元「遠藤窯」によるオリジナル湯呑と急須
  • 松山市「ICOI COFFEE」によるオリジナルドリップパック
  • 西条発の銘菓「たぬきまんじゅう」
  • 愛媛有数のお茶どころ新宮町で、古くから新宮茶のパイオニア「脇製茶」の緑茶
  • 愛媛在住の和紙デザイナーによる和紙アート
  • 西条の水の音をサンプリングした自動温泉構築システム「AISO」による館内音楽

等々、愛媛にどっぷり浸かった滞在ができます。愛媛を中心にホテル建設にかかわった方々が紹介されたパネルもあります。

ITOMACHI HOTEL 0 の生まれた経緯

実はこのホテル。ホテルありきで造られたのかとと思いきや、アドバンテック社が西条市の住民から意見を募って作られたのだそうです。
同社が再生可能エネルギーの拠点づくりのために地方をめぐる中で「人がいない」「何もない」「活気がない」という日本の地方都市の厳しい現実を実感させられました。地元西条も例外ではなく、「街のにぎわいを取り戻したいこと」、「若者や挑戦する人にチャンスを与えられる街にしたいこと」の2つを趣旨にした上で、隈研吾さんとプロジェクトを始動。住民の意見を取り入れたところ、ホテルという拠点が採用されたとのことでした。
どうしても「日本初」という冠にはこだわりたかったという明山社長。
水資源が豊富な西条市というブランドとも相まって、日本初のゼロエネルギーホテルが完成したようです。
オープン後は、市民から「帰省した親族が泊まる場所ができた」と喜ばれているそうです。

ITOMACHI HOTEL 0 を訪れてみて

念願叶って訪れたITOMACHI HOTEL 0では、

  • ゼロエネルギーを視覚にして伝えるインフォグラフィックス
  • 愛媛県産のものをとことん追求・表現した設備、備品、アメニティ、食事
  • ゼロエネルギーホテルを謳いながらも僅か60㎡の客室に最新のエアコンが3台も設置されていること、それが必要ないほどの客室の機密性の高さ
  • ホテル外への回遊を促す滞在の提案
  • 宿泊客に媚びる(主張する)ことなくスタイリッシュにサステナビリティを実現していること
  • 地元住民の声から生まれて、支持されているホテルであること
  • 災害時の避難拠点となっていること

等、私にとっては興奮ものでしたが、私のように”ゼロエネルギー”が滞在動機となり泊まりにくる客は全体の3%程度だそうです。(企業や団体の視察は除く)

明山社長も、「なんか素敵なホテルだな」とか「評判の良いホテルだから」と泊まりに来たら、実はゼロエネルギーホテルだったと気付いてくれる位で良いと思っている とのことでした。

旅行者がサステナビリティに熱心に取り組んでいる宿を選ぶという消費行動はまだまだ先の話になりそうですが、サステナビリティに取り組む宿に泊まった事実というのは、結果的に宿泊客にとって後味の良いものになるのだろうと思います。
宿泊業では、滞在前と滞在中の印象を良くすることは比較的手が付けやすくアイデアも出やすいですが、滞在後の印象を良くすることは難しく、ハードルが高いものです。
その点、サステナビリティ経営に注力している宿は滞在後の評価を上げることができるのが大きなアドバンテージとなるのだろうと考えさせられた滞在となりました。


Sentosa Development Corporation has joined as a Member of the Global Sustainable Tourism Council (GSTC)

Global Sustainable Tourism Council(GSTC)とは、グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会は、世界的な旅行および観光分野における観光産業界の専門家や、政府機関のための持続可能な開発の基準を定め、管理する国際非営利団体です。