Sustainable Tourism

エコ ラグジュアリー(Eco Luxury)なリゾート「El Nido RESORTS」

2023年12月のANAの機内誌「翼の王国」を見て、目に留まった「El Nido」。
「エルニド」というキーワードを耳にしたことはあった気がしますが、正直この時点ではフィリピンにあるということも認識していませんでした。

機内誌では「最後の楽園」と称され、エルニドエリアで最初のリゾートとして、「ミニロック・アイランドリゾート」が紹介されていました。一部を抜粋すると、

いかにして(持続可能などという言葉が無かった当時から)レスポンシブルツーリズムを目指し、維持してこられたのか?それは、「このリゾートの最大の目的は地域社会との調和であり、手を携えて環境保全に取り組むこと」という出発点にあり、その目的を掲げたのは当時運営していた日本の会社であったということに少なからず喜びと感動を覚える。その後オーナーは変わったが当時の目的は受け継がれ、さらに進化。エルニドに環境教育を導入したマリグロ・ラリリット氏をリゾート専属の生物学者として迎え入れ、スタッフへの啓発を進める・・・

2023年12月のANAの機内誌「翼の王国」より

この部分を読んでミニロック・アイランドリゾートに視察に行きたいと考え、行ってきました。

エルニドは、フィリピン西部にあるパラワン島北部のエリア(自治体名)。

Air Swift機内誌画像

マニラから1時間半ほどのプロペラ機でのフライトで、エルニドのLio(リオ)空港に到着します。
そこから、ミニロック島までは開放感抜群の小型船(船の形態によって20~45分)での移動です。

エルニドでは「1島1リゾート」制を敷いていて、1つの島に1つのリゾートしかありません。7つの島がリゾートを持っており、その占有率は1%にも満たないと言われています。このようなルールを取り入れることで、乱開発から逃れ、環境と観光のバランスを保ってきました。

今回は、ミニロック・アイランドリゾートと、もう1島「ラゲン」島にあるラゲンアイランドリゾートに宿泊することにしました。いずれもAyala Land, inc.のリゾート子会社Ten Knots Groupの中のEL NIDO RESORTSです。

リゾートに到着すると、歓迎のレイを首にかけてくれます。ブナの木で編まれたもので、ミニロックアイランドでは「花」。
後日宿泊するラゲンアイランドでは「魚」の形をしていました。
見かけが派手でゴージャスなだけのプラスチック製のレイとは違って、自然に還るものです。
パラワン島の女性たちに依頼して作ったもので、女性の自立支援につなげているとのこと。

歓迎のスイカジュースと一緒に撮影。

チェックインを済ませると、アクティビティ専門スタッフが滞在中のアクティビティの説明とプランニングをしてくれます。
エルニドリゾーツは、オールインクルーシブスタイルで、滞在中の食事とアクティビティが含まれています。具体的には、チェックイン日の昼~チェックアウト日の昼までの4食分が滞在に含まれています。
基本的にはグループアクティビティは無料。例えばLAGEN島の場合、

・Birdwatching(早朝)
・Guided Forest Hike Tour(朝)
・A Day of Island Bliss(午後・2時間半)
・Seaside Exploration(午前・4時間)
・Coastal Wonders Adventure(午前・4時間)
・Nature Walk(夕方)

等があり、各ツアーごとに3ヶ所程度のスイミングや観光、カヤック、シュノーケルスポットを巡る内容です。
それ以外にもリゾートの海岸からカヤック、スイミング、シュノーケルができるようになっています。

基本的には船に乗ってアクティビティスポットに行きますが、ここで説明を受けるのが、ラグーンに行くツアーの場合、1人1日Lagoon1ヶ所につき200PHP(フィリピンペソ・2024年4月現在で500円程度)が環境保護代として徴収されるとの説明があります。
到着直後から環境に配慮した説明が受けられるなんて、私にとってはこれ以上嬉しいことは無く、いずれすべての宿泊施設でこのように、ホテルのスタッフから宿泊客へ環境への啓蒙活動ができるようになると良い等と常々考えています。

レストランや客室を見渡す限り、建材は木材で作られており、ハンガーやタオルハンガーも例外ではありません。
客室のスリッパと何かと便利な「手提げ」も、到着時のレイ同様、ブナの木が編まれたもので作られています。

当然ペットボトルは置いておらず、瓶に入った水が用意されています。
家電製品とティーセット、バス・トイレ・洗面周りのちょっとしたアメニティ、布団やクッション等のリネン類を除いては、ゴミ箱も含め自然素材で作られているという客室空間です。
アメニティ容器もアップサイクルした素材で作られたような物で、内容物(シャンプー、ボディシャンプー等)も環境に配慮した成分のものを採用しているとのことです。

このほかにもこのエルニドリゾーツでの環境への取り組みは様々あります。
今回の視察では予約段階からインタビューの依頼をし、ミニロックとラゲンの双方のサステナビリティオフィサーに話を伺ってきました。

話を聞かせてくれたSustainability officerのジアンさん

海水を真水に処理した水や、雨水を集めフィルターを通し利用可能にした水を、水道水やシャワーとして利用しています。また、STP(汚水処理施設)を設置し、未処理の下水を海に流さずリゾート内で処理しリサイクルしています。処理後の水は、トイレの水や植物への水まき用、消火等に利用しています。

コンポスト(生ごみの堆肥化)

リゾートから出る生ごみは、船で本島に運び、肉は肉、魚は魚、野菜は野菜と細かく分類します。餌としてあげられるものは豚に給餌し、それ以外のものはコンポストの上、自社農園で活用し、そこで育てた農作物をリゾートで提供しています。

廃材の活用

リゾートで使わなくなった家具は、まずは従業員で必要な人がいないか、地域住民で必要な人がいないか。いた場合は、格安で譲るそうです。

従業員教育

リゾートで働くスタッフは誰もが最低でも丸一日リゾートの環境教育を受講する必要があります。当然サステナビリティオフィサーという専門職となれば、継続的な勉強が求められます。

モニタリング

提供した食事の量と廃棄したゴミの量を常時モニタリングし、予約の入込状況で需要予測を立てると言います。とても大変な作業ではあるが、重要な指標であることを強調していました。

このような取り組みを中心に話を聞かせていただきましたが、リゾートでの取り組みは他にもあり、ウェブサイトや看板に掲載されていたものも併せて紹介します。

宿泊者への啓蒙

併せてLio空港には「THE TEN EL NI-DOs」と書かれた、楽園での滞在を最大限に楽しむ方法として以下の10の項目が掲示されています。

  1. 珊瑚を愛でる時は、サンゴはとてもデリケートであることを忘れないで!
  2. 陸上生物・海上生物ともに人間と同様に扱いましょう!プライバシーを尊重しましょう!
  3. エルニドに持ち込んだものは家に持ち帰りましょう!
  4. エルニドの透明な海、白い砂浜、緑豊かな森を守りましょう!タバコの吸い殻、缶、プラスチックごみはゴミ箱へ。
  5. 希少な海と地層に関心を持ちましょう!
  6. 地域住民と交わり、彼らの文化と伝統を尊重しましょう!
  7. 罪のない子供達の権利を守ろう!
  8. あらゆる全ての生物には役割があり、環境に貢献していることを理解しましょう!
  9. 地球を守り、管理していくことに責任を持ちましょう!
  10. エルニドの生物保護管理システムを支持しましょう!

①写真以外何もとらないこと
②足跡以外何も残さないこと

③思い出以外何も持って行かないこと
④時間以外何もつぶさないこと

というエルニドで有名な4つのルールは看板の下に書かれていました。

環境に配慮したマリンスポーツ

節電のみならず環境保護の観点からも、ジェットスキー等、エンジンを使用するマリンスポーツは控え、リゾートで使用するボートには環境にやさしいエンジンを使用しています。

生態系の保護

違法な漁法やエルニーニョによる白化現象でダメージを受けたダイビングポイントを潜水禁止区域として、セラミックで作ったエコリーフを設置しサンゴの育成を手がけ、絶滅危惧種でもあるシャコガイをミニロックアイランド、及びラゲンアイランドのリゾート前の海へと運び、保護、育成しています。

環境保全

ボートが訪れるポイントで錨の投下でダメージを受けないよう、ボートを係留するブイを湾内の21箇所に設置し管理し、コースタルクリーンアップデイやワールドオーシャンデイ等のエコ活動に積極的に参加しています。

サステナビリティオフィサーは、エコラグジュアリーなリゾートだから泊まりに来たという私のような旅行者は非常に少なく、今後いかにそうしたプロモーションを強化していくかという点に課題感を感じていました。
また、リゾートでいくらプラスチックの利用を制限しても、宿泊客がサシェ(1回使い切りのシャンプーやソープ、スキンケア)を持ち込んでしまうため、無くすことができないことも嘆いていました。

Ten Knots Groupは、世界観光機関のGlobal Tourism Plastics Initiativeに署名しており、2025年までの具体的な達成目標を掲げています。その点においても、宿泊客の持ち込むプラごみは頭の痛い問題なのでしょう。

さて、なぜエルニドの自然がこれほどまでに守られてきたかというと、1984年からウミガメ保護区として管理され、1998年以降はエルニド市とタイタイ市において、様々なプログラムやプロジェクトが導入されるようになりました。2006年にはエルニド・タイタイ管理資源保護区としてユネスコの暫定リストに加わったという経緯があります。

今回泊まったミニロック・アイランドとラゲン・アイランドを経営する、Ten Knots Development Corporationの代表は、環境にバックグラウンドを持つスペイン人と聞きました。
道理でこれだけリゾートにおいて、環境におけるサステナビリティを推進しているわけだと納得がいきます。

また、Ten Knots Groupの親会社である、Ayala Landはフィリピンのデベロッパーですが、サステナビリティを主軸にした経営をしており、2024年3月には日本の竹中工務店と合弁会社を作り、フィリピンでの不動産開発に益々拍車をがかかる見込みです。
また、4月にはアヤラランド ホテルズ アンド リゾーツ コーポレーション (AHRC) が、フィリピンのホテル グループとしては初となる、2026 年までにホテル ポートフォリオの 2,826 室で EDGE ゼロ カーボン認証を取得するというコミットメントを示す国際金融公社 (IFC) との契約を締結したことで、より高度の環境経営を目指すことになるでしょう。

このようなECO‐LUXRYをうたう世界的なリゾートでさえも、持続可能性では宿泊客は呼べないと言います。
地球温暖化を身近に感じ、環境に配慮した行動として、マイボトルやエコバックを常時携帯を選択する人は確実に増えていますが、非日常である旅行において、環境に配慮した滞在先を選択するという機運になるにはまだまだ時間がかかりそうです。
旅行者に求められようが、求められまいが、環境に配慮した経営を推進していくことが宿泊事業者のベネフィットにつながる土壌づくりがいまの観光業界に求められています。

日本初のゼロ・エネルギーホテル『ITOMACHI HOTEL 0』

愛媛県西条市に2023年5月にOPENした ITOMACHI HOTEL 0 は、環境省が定める「ZEB」認証を取得した日本初のホテルです。

愛媛県西条市に本社のある、半導体機器製造メーカーで再生エネルギーや地方創生、まちづくり事業も展開する株式会社アドバンテック社と、国内外で話題のホテルを手掛ける株式会社GOODTIME社が、隈研吾氏の建築設計により開業しました。

予約時に無理を言って、ホテルの話を伺いたいと申し出たところ、なんとGOODTIME社の明山社長がお見えになり、館内外をご案内くださいました!

ゼロエネルギーの仕組みが一目で理解できるインフォグラフィックス

ホテルのレセプションに到着するとまず目に飛び込んでくるのは、インフォグラフィックス。
(そこまで目立つように置かれているわけではないのですが、私のように、ゼロエネルギーを目的として泊まりに来る人にとっては目に飛び込んでくるはずです)
以下で紹介するのはデモ画面ですが、ホテルが消費しているエネルギー量と生み出しているエネルギー量が掲載されています。
ZEBのために蓄電池とコージェネ(CGS発電機)も用意したものの、開業以来使用したことが無く、太陽光発電で全てまかなえているとのことでした。
また災害時の避難所としても機能するように、電力供給が止まっても72時間自家発電で電気が使えるようになっています。

水道代が無料の西条市

西条市は湧き水が豊富で、上水道が無料の市としても知られています。
水の豊富な西条市ならではで、客室には水の流れる仕組みがみられる透明の蛇口があります。

サステナビリティを徹底した客室アメニティ

客室には当然ペットボトルの水は置いておらず、西条の湧き水が入ったボトルが用意されています。客室からウォーターボトルに水を汲んで出かけることも出来るし、街中で水を汲むことも出来ます。
併設する『いとまちマルシェ』で買い物をするときにも使えるエコバックも用意されています。

滞在に便利な設備『ゲストキッチン』を併設

宿泊スタイルは、朝食付きプランはあるものの、夕食は提供しておらず『いとまちマルシェ』や近隣の飲食店を紹介しています。あるいは、ホテル内にキッチンがあるのでよそで購入したものを持ちこんで調理をすることも出来ます。
訪問者に滞在中に街中に出てもらうことは、ホテルがサステナブルな地域づくりに貢献するのに重要な視点です。

サイクリストの滞在にも最適!

客室内にそのまま自転車を持ち込める仕様となっている上、駐輪場、コインランドリーもあり、サイクリストの滞在にも適しています。サステナブルツーリズムへの相性も抜群です。

『愛媛のたのしみ』を0から体験―愛媛づくしのホテル

  • 客室の色調は、伊予青石を基調にしたブルー
  • 朝食は、地元愛媛の産地から仕入れた旬の野菜や果物を使用
  • 砥部焼の窯元「遠藤窯」によるオリジナル湯呑と急須
  • 松山市「ICOI COFFEE」によるオリジナルドリップパック
  • 西条発の銘菓「たぬきまんじゅう」
  • 愛媛有数のお茶どころ新宮町で、古くから新宮茶のパイオニア「脇製茶」の緑茶
  • 愛媛在住の和紙デザイナーによる和紙アート
  • 西条の水の音をサンプリングした自動温泉構築システム「AISO」による館内音楽

等々、愛媛にどっぷり浸かった滞在ができます。愛媛を中心にホテル建設にかかわった方々が紹介されたパネルもあります。

ITOMACHI HOTEL 0 の生まれた経緯

実はこのホテル。ホテルありきで造られたのかとと思いきや、アドバンテック社が西条市の住民から意見を募って作られたのだそうです。
同社が再生可能エネルギーの拠点づくりのために地方をめぐる中で「人がいない」「何もない」「活気がない」という日本の地方都市の厳しい現実を実感させられました。地元西条も例外ではなく、「街のにぎわいを取り戻したいこと」、「若者や挑戦する人にチャンスを与えられる街にしたいこと」の2つを趣旨にした上で、隈研吾さんとプロジェクトを始動。住民の意見を取り入れたところ、ホテルという拠点が採用されたとのことでした。
どうしても「日本初」という冠にはこだわりたかったという明山社長。
水資源が豊富な西条市というブランドとも相まって、日本初のゼロエネルギーホテルが完成したようです。
オープン後は、市民から「帰省した親族が泊まる場所ができた」と喜ばれているそうです。

ITOMACHI HOTEL 0 を訪れてみて

念願叶って訪れたITOMACHI HOTEL 0では、

  • ゼロエネルギーを視覚にして伝えるインフォグラフィックス
  • 愛媛県産のものをとことん追求・表現した設備、備品、アメニティ、食事
  • ゼロエネルギーホテルを謳いながらも僅か60㎡の客室に最新のエアコンが3台も設置されていること、それが必要ないほどの客室の機密性の高さ
  • ホテル外への回遊を促す滞在の提案
  • 宿泊客に媚びる(主張する)ことなくスタイリッシュにサステナビリティを実現していること
  • 地元住民の声から生まれて、支持されているホテルであること
  • 災害時の避難拠点となっていること

等、私にとっては興奮ものでしたが、私のように”ゼロエネルギー”が滞在動機となり泊まりにくる客は全体の3%程度だそうです。(企業や団体の視察は除く)

明山社長も、「なんか素敵なホテルだな」とか「評判の良いホテルだから」と泊まりに来たら、実はゼロエネルギーホテルだったと気付いてくれる位で良いと思っている とのことでした。

旅行者がサステナビリティに熱心に取り組んでいる宿を選ぶという消費行動はまだまだ先の話になりそうですが、サステナビリティに取り組む宿に泊まった事実というのは、結果的に宿泊客にとって後味の良いものになるのだろうと思います。
宿泊業では、滞在前と滞在中の印象を良くすることは比較的手が付けやすくアイデアも出やすいですが、滞在後の印象を良くすることは難しく、ハードルが高いものです。
その点、サステナビリティ経営に注力している宿は滞在後の評価を上げることができるのが大きなアドバンテージとなるのだろうと考えさせられた滞在となりました。


Sentosa Development Corporation has joined as a Member of the Global Sustainable Tourism Council (GSTC)

Global Sustainable Tourism Council(GSTC)とは、グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会は、世界的な旅行および観光分野における観光産業界の専門家や、政府機関のための持続可能な開発の基準を定め、管理する国際非営利団体です。