Sustainable Tourism

Sustainable company – NH Collection Copenhagen サステナブルカンパニー NHコレクション コペンハーゲン

以前、日経の記事で目に留まった NH Collection Copenhagen
その記事のタイトルは「デンマークで話題 『5つ星サステナブルホテル』開業」でした。

記事内でコペンハーゲンについて言及されていたのは、

  • コペンハーゲンにあるDMO(観光地経営組織)のワンダフルコペンハーゲンについて
  • 電動スクーターの駐車マナーの悪さに景観が損なわれ一度廃止になったこと
  • コペンハーゲンの生活に欠かせない運河は、以前はひどく汚れていた。廃水処理と下水道システムの改善、雨水の放流を減らしたことにより、現在は市民の身近なプールとして泳げるほど水質は改善された。
  • サステナブルに関連した文化施設や店舗、レストランなどの場所が地図上に表示されるアプリ「Planet Copenhagen」

NH Collection Copenhagenについて言及されていたのは、

  • ホテルの建物は、もともと1960年代に建てられたBurmeister&Wain社の造船所で、その後は銀行として使われていたものをリノベーションした。(建て替えた方が割安であったものの、サステナブルという観点から)
  • エレベーターや廊下は人感センサーによって自動で点灯・消灯するようになっており、部屋はカードキーを差さないと電気がつかない仕組みで、電気を節約している
  • 各部屋の机や椅子、ベッドなどの家具はリサイクル素材で作られている。
  • ゴミ箱は分別式で、燃えるゴミとリサイクルとに分かれている。
  • 連泊の際にシーツやタオルの交換を省いてくれるゲストには、好きなドリンクを無料で提供している。
  • 自転車のレンタルを行っている他、電気自動車で来館したゲストには駐車場代を無料にしている。
  • ホテルの建物内には水管が設置されており、運河の水が建物全体を通るように設計されており、建物全体から生じる熱を冷却する。
  • 大きなエネルギーを消費するプールは有さず、夏場はハーバーのあちこちに設置されているBathing Zone(遊泳区域)での楽しみ方を宿泊客に提案している。
  • 建物の修景、バイオダイバーシティーの保全、断熱効果と雨水の吸収を目的とした屋上緑化。

(出所:デンマークで話題 『5つ星サステナブルホテル』開業

NH Collection Copenhagenを有する企業NH Hotel Groupは、1978 年にスペインで創業。10年後には、スペイン有数のホテルチェーンとしての地位を確立、今では30ヶ国で350軒、54,820室のホテルを12,800人の従業員(フランチャイズ除く)で運営しています。

同ホテルグループのコミットメントは、
「お客様、株主、パートナー、従業員、社会に持続可能でより良いホテルサービスを提供すること」

サステナビリティページでは、Sustainable company – UP FOR PLANET & PEOPLE を掲げ、地球とステークホルダーが主軸であることを強調しています。

2006年から発行している同社のサステナビリティレポートの最新版「Consolidated Statment of Non-Financial Information – Sustainability Report 2022」を見ると、2022年の革新的な取り組みが紹介されています。

  • モバイルゲストサービス
    ホテル情報やサービスのデジタル化。ゲストのデバイスから、ルームサービスの注文やレストランのテーブルの予約、追加のアメニティのリクエストなどあらゆる情報へのアプローチやオーダーが可能に。ゲストのエクスペリエンスと業務生産性の向上という持続可能性の観点から、利益を生み出す。
  • ファストパス
    オンラインチェックイン、ホテルのレイアウトを見ながらの客室選択、オンラインチェックアウトと、ゲストが滞在を完全にコントロールできるように。
  • ハウスキーピングモビリティアプリ
    部屋がきれいになり準備が整うと、ホテルの清掃スタッフがアプリを使用してリアルタイムで確認できる。(ため、どの部屋に清掃に行けば良いのか迷わないで済む)
  • フロントにスマートタブレットを設置
    イノベーションの最前線に立ち、ゲストに最高のサービスを提供し続けることを目的として、チェックインとチェックアウトのプロセスのすべての段階をデジタル化した。このことは、200 万枚の A4 用紙の節約につながり、以下のことが実現できる。
    • 30,000 kg の木材を節約
    • 500 m3 の水が消費されない
    • 100,000 kWh のエネルギーを節約
    • 11 トンの CO2 が大気中に排出されない

また、2022年の実績として、以下の情報開示がありました。

  • 6軒の新たに認証されたホテルを加えて、173軒のホテルが認証済
  • 消費電力のうち、64%が再生可能エネルギー由来。南ヨーロッパのホテルでは100%がグリーンエネルギーから調達。
  • 69軒のホテルがレンタサイクルサービスを、64軒のホテルが電気スタンドを提供
  • 1500万個のアメニティの削減
  • 12,532軒の全サプライヤーのうち、1,760軒が倫理的なコードに署名済み
  • 従業員教育に157,455時間
  • 101名の障がい者雇用
  • 全体の51%、マネジメント職の44%が女性
  • 離職率24%,
  • 273人の傷病休暇
  • 135,523€の間接的な社会貢献

さて、このような取り組みを行うNH Hotel Groupが、新たにサステナブルの先進地であるコペンハーゲンに2021年に開業した、上記の通り日経の記事でも取り上げられたNH Collection Copenhagenに泊まりに行ってみました。

上記レポートにもありましたように、運河の目の前に立地しています。モバイルゲストサービスが充実していたのが印象的で、知りたい情報にアクセスできるだけでなく、内線電話をかけることなくリクエストができるため、ゲストとしても快適に過ごせました。eマガジンも充実していて世界中の雑誌が閲覧できるようになっており、退屈しません。

アメニティも環境に配慮したものが置かれており、ミニバーを含めペットボトルの飲料を目にすることはありません。ホテルの客室としては珍しく、分別を促すごみ箱が置かれています。私は1泊だったので、グリーンチョイス(連泊時、リネン交換を遠慮するとワンドリンクもらえる)の体験できませんでしたが、ゲストも無理なく環境負荷軽減に貢献できるようになっています。

一大ホテルチェーンがアプリ1つ導入することで生産性が格段に上がりますし、紙とアメニティの提供を減らすと、それだけでも環境負荷の大幅な削減に繋がります。サプライチェーンに倫理コードへの署名を促すことで、中小企業へもサステナブル経営を波及させる効果があります。ホテルチェーンのリーディングカンパニーの1社として、更なる社会課題の解決に取り組んでいってほしいものです。

日本初のゼロ・エネルギーホテル『ITOMACHI HOTEL 0』

愛媛県西条市に2023年5月にOPENした ITOMACHI HOTEL 0 は、環境省が定める「ZEB」認証を取得した日本初のホテルです。

愛媛県西条市に本社のある、半導体機器製造メーカーで再生エネルギーや地方創生、まちづくり事業も展開する株式会社アドバンテック社と、国内外で話題のホテルを手掛ける株式会社GOODTIME社が、隈研吾氏の建築設計により開業しました。

予約時に無理を言って、ホテルの話を伺いたいと申し出たところ、なんとGOODTIME社の明山社長がお見えになり、館内外をご案内くださいました!

ゼロエネルギーの仕組みが一目で理解できるインフォグラフィックス

ホテルのレセプションに到着するとまず目に飛び込んでくるのは、インフォグラフィックス。
(そこまで目立つように置かれているわけではないのですが、私のように、ゼロエネルギーを目的として泊まりに来る人にとっては目に飛び込んでくるはずです)
以下で紹介するのはデモ画面ですが、ホテルが消費しているエネルギー量と生み出しているエネルギー量が掲載されています。
ZEBのために蓄電池とコージェネ(CGS発電機)も用意したものの、開業以来使用したことが無く、太陽光発電で全てまかなえているとのことでした。
また災害時の避難所としても機能するように、電力供給が止まっても72時間自家発電で電気が使えるようになっています。

水道代が無料の西条市

西条市は湧き水が豊富で、上水道が無料の市としても知られています。
水の豊富な西条市ならではで、客室には水の流れる仕組みがみられる透明の蛇口があります。

サステナビリティを徹底した客室アメニティ

客室には当然ペットボトルの水は置いておらず、西条の湧き水が入ったボトルが用意されています。客室からウォーターボトルに水を汲んで出かけることも出来るし、街中で水を汲むことも出来ます。
併設する『いとまちマルシェ』で買い物をするときにも使えるエコバックも用意されています。

滞在に便利な設備『ゲストキッチン』を併設

宿泊スタイルは、朝食付きプランはあるものの、夕食は提供しておらず『いとまちマルシェ』や近隣の飲食店を紹介しています。あるいは、ホテル内にキッチンがあるのでよそで購入したものを持ちこんで調理をすることも出来ます。
訪問者に滞在中に街中に出てもらうことは、ホテルがサステナブルな地域づくりに貢献するのに重要な視点です。

サイクリストの滞在にも最適!

客室内にそのまま自転車を持ち込める仕様となっている上、駐輪場、コインランドリーもあり、サイクリストの滞在にも適しています。サステナブルツーリズムへの相性も抜群です。

『愛媛のたのしみ』を0から体験―愛媛づくしのホテル

  • 客室の色調は、伊予青石を基調にしたブルー
  • 朝食は、地元愛媛の産地から仕入れた旬の野菜や果物を使用
  • 砥部焼の窯元「遠藤窯」によるオリジナル湯呑と急須
  • 松山市「ICOI COFFEE」によるオリジナルドリップパック
  • 西条発の銘菓「たぬきまんじゅう」
  • 愛媛有数のお茶どころ新宮町で、古くから新宮茶のパイオニア「脇製茶」の緑茶
  • 愛媛在住の和紙デザイナーによる和紙アート
  • 西条の水の音をサンプリングした自動温泉構築システム「AISO」による館内音楽

等々、愛媛にどっぷり浸かった滞在ができます。愛媛を中心にホテル建設にかかわった方々が紹介されたパネルもあります。

ITOMACHI HOTEL 0 の生まれた経緯

実はこのホテル。ホテルありきで造られたのかとと思いきや、アドバンテック社が西条市の住民から意見を募って作られたのだそうです。
同社が再生可能エネルギーの拠点づくりのために地方をめぐる中で「人がいない」「何もない」「活気がない」という日本の地方都市の厳しい現実を実感させられました。地元西条も例外ではなく、「街のにぎわいを取り戻したいこと」、「若者や挑戦する人にチャンスを与えられる街にしたいこと」の2つを趣旨にした上で、隈研吾さんとプロジェクトを始動。住民の意見を取り入れたところ、ホテルという拠点が採用されたとのことでした。
どうしても「日本初」という冠にはこだわりたかったという明山社長。
水資源が豊富な西条市というブランドとも相まって、日本初のゼロエネルギーホテルが完成したようです。
オープン後は、市民から「帰省した親族が泊まる場所ができた」と喜ばれているそうです。

ITOMACHI HOTEL 0 を訪れてみて

念願叶って訪れたITOMACHI HOTEL 0では、

  • ゼロエネルギーを視覚にして伝えるインフォグラフィックス
  • 愛媛県産のものをとことん追求・表現した設備、備品、アメニティ、食事
  • ゼロエネルギーホテルを謳いながらも僅か60㎡の客室に最新のエアコンが3台も設置されていること、それが必要ないほどの客室の機密性の高さ
  • ホテル外への回遊を促す滞在の提案
  • 宿泊客に媚びる(主張する)ことなくスタイリッシュにサステナビリティを実現していること
  • 地元住民の声から生まれて、支持されているホテルであること
  • 災害時の避難拠点となっていること

等、私にとっては興奮ものでしたが、私のように”ゼロエネルギー”が滞在動機となり泊まりにくる客は全体の3%程度だそうです。(企業や団体の視察は除く)

明山社長も、「なんか素敵なホテルだな」とか「評判の良いホテルだから」と泊まりに来たら、実はゼロエネルギーホテルだったと気付いてくれる位で良いと思っている とのことでした。

旅行者がサステナビリティに熱心に取り組んでいる宿を選ぶという消費行動はまだまだ先の話になりそうですが、サステナビリティに取り組む宿に泊まった事実というのは、結果的に宿泊客にとって後味の良いものになるのだろうと思います。
宿泊業では、滞在前と滞在中の印象を良くすることは比較的手が付けやすくアイデアも出やすいですが、滞在後の印象を良くすることは難しく、ハードルが高いものです。
その点、サステナビリティ経営に注力している宿は滞在後の評価を上げることができるのが大きなアドバンテージとなるのだろうと考えさせられた滞在となりました。


Sentosa Development Corporation has joined as a Member of the Global Sustainable Tourism Council (GSTC)

Global Sustainable Tourism Council(GSTC)とは、グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会は、世界的な旅行および観光分野における観光産業界の専門家や、政府機関のための持続可能な開発の基準を定め、管理する国際非営利団体です。