エコツーリズムの“先進モデル” 屋久島
自然保護と観光が共存する島・屋久島
――日本のエコツーリズム最前線を歩く というテーマで屋久島へ視察に行きました。
「1か月に35日雨が降る島」。
そんな独特の表現で知られる屋久島は、世界でも有数の多雨地帯です。林芙美子の小説『浮雲』に由来するこの言葉のとおり、年間降水量は平地で約4,000mm、山間部では8,000~10,000mm以上に達します。この豊かな雨が、屋久島の深い森と生態系を育んできました。
屋久島は1993年に世界自然遺産に登録されましたが、その背景には、登録以前から続く長年の自然保護の取り組みがあります。
住民主体で始まった自然保護の歴史
屋久島では1972年、林業のあり方をめぐる問題意識から、地元有志による「屋久島を守る会」が結成されました。これは、行政主導ではなく、地域住民自身が島の未来を考え、動き出した象徴的な出来事です。
その後も取り組みは段階的に進み、
・1981年:ユネスコエコパーク(生物圏保存地域)に登録
・1993年:世界自然遺産に登録
・2000年代以降:入山規制、マナーガイド、ガイド制度、環境保全協力金の導入
と、制度と仕組みを丁寧に積み上げてきました。
エコツーリズムの“先進モデル”
屋久島は、日本のエコツーリズムの最先端を走る地域と言ってよいでしょう。
これからエコツーリズムを導入しようとする自治体にとって、屋久島の取り組みは非常に参考になるモデルです。
象徴的なのは、登山や観光における「ルールの可視化」と「人の介在」です。
・町道荒川線ではオンシーズンの車両乗り入れを全面規制
・「YAKUSHIMAマナーガイド」の作成
・ガイド登録制度、公認ガイド制度の導入
・山岳部環境保全協力金の徴収
旅の心得やマナーに関する表示や動画を、旅行先でこれほど多く見かけたのは初めてでした。
空港で預け入れ荷物を待っている間でさえ、観光時の注意点が動画で流れており、島全体で意識を共有しようとする姿勢が伝わってきます。
脱炭素に最も近い島
屋久島は「脱炭素に一番近い島」とも言われています。
その理由は、島の電力のほぼすべてが、発電時にCO₂を排出しない水力発電で賄われていることにあります。
さらに近年では、
・公用車への電気自動車導入
・急速充電設備の整備
・木材をふんだんに使った庁舎整備
といった取り組みも進められています。
2019年5月に完成した屋久島町役場は木造2階建てで、使用されている木材の多くが屋久島産です。建物そのものが、島の資源循環と思想を体現しているように感じました。
ガイド制度が支える「質の高い体験」
縄文杉トレッキングでは、屋久島ネイティブの60代半ばのガイドさんにお世話になりました。
朝6時に登山口を出発し、夕方16時に戻る、往復10時間・約22kmの行程。かなりハードですが、そのガイドさんは、信じられないことに、「今日から8連チャンだよ」と笑顔で話していました。
一方で、「また近々、研修を受けないといけない」と少しぼやいていたのが印象的でした。しかし、その言葉からは、ガイドが定期的に研修を受け、知識と技術を更新し続けていることが自然と伝わってきます。
制度が形骸化せず、現場でしっかり機能している証拠だと感じました。
観光客も「守る側」になる仕組み
宿泊した民間のホテルでも、環境保全の協力金を任意で募っていました。用途を尋ねると、自治体から要請があった際の活動費として活用しているとのこと。
行政だけでなく、事業者や旅行者も含めて「島を守る仕組み」が成立しているのが屋久島らしさです。
この島に魅了され、移住してツアーガイドになる人が少なくないのも、こうした価値観の共有が背景にあるのだと思います。
入山制限を設けないという選択と、結果としてのバランス
屋久島の登山では、法的な「入山制限」は設けられていません。
しかし、縄文杉方面への入山者数を見ると、その推移はとても示唆的です。
2000年には年間およそ3万人だった入山者数は、2008年に約9.2万人とピークを迎えました。その後は減少傾向に転じ、2025年には約5万人程度となっています。
注目すべきなのは、この数字が厳格な人数制限ではなく、複合的な要因によって自然に調整されてきた点です。屋久島へ行くには、飛行機か船に必ず乗らなければなりません。アクセスのハードルそのものが、結果として来訪者数を一定の範囲に収める役割を果たしており、これは島の自然を守っていくうえで、好都合な条件とも言えるでしょう。
観光依存と持続可能性のあいだで
世界自然遺産登録以降、屋久島の産業構造は大きく変化しました。
現在では、島の産業の約7割を観光産業が占めていると言われています。
観光が島の経済を支える一方で、過度な来訪者増加は自然環境への負荷を高めかねません。屋久島では、入山規制ではなく、アクセス、マナー啓発、ガイド制度、協力金といった「緩やかなコントロール」を積み重ねることで、需要と供給のバランスを保とうとしてきました。
これからも屋久島の観光産業を持続可能なものとしていくためには、単に人を呼び込むだけでなく、「どれくらいの関わり方が適切なのか」を問い続けていくことが重要なのだと思います。
観光で成り立つ島だからこそ、自然を消費しすぎない。
屋久島は、その難しいバランスに、真正面から向き合い続けている場所です。
先に進んでいた島、屋久島
エコツーリズムやサステナブルツーリズムという言葉が一般化するずっと前から、自然とどう向き合うかを考え、実践してきた屋久島。
その積み重ねが、現在の評価と信頼につながっています。
参考)
https://www.env.go.jp/park/yakushima/ywhcc/index.html
https://www.pref.kagoshima.jp/ad02/kurashi-kankyo/kankyo/sougou/co2free/documents/2103_20250808134913-1.pdf
https://www.env.go.jp/park/yakushima/ywhcc/common/data/np/2025counterdata.pdf
